2.ヘラクレス体操場建築

文字数 953文字

体操場建築?

なんか楽しそうでええな。

その体操場をギュムナシオンと言う。

ギュムノスとは「裸」の意味だ。

裸の健康的な18歳以上の男子が共に競い合い、哲学を語り合う場所とされる。

クセルクセス1世と戦ったスパルタの連中と言い。

ギリシア人は裸大好きやな。

草どもの裸などさして見たいとも思えませんが。

連中はそれを美しいと思ってらしたのよね。

まあ、男も女も肉体美を愛でるなら裸体が一番やからな。

気持ちは分からんでもない。

ただし、ユダヤ人にとってこのギュムナジウムは決して歓迎できるものじゃない。

これは彼らの信仰を脅かすものでもあるんだ。

なんでなん?

ただの訓練場みたいなもんちゃうんか?

2世紀のギリシア人旅行家パウサニアスが『ギリシア案内記』という著書を残している。

それによると、ギュムナジウムはヘラクレスなどの神々に庇護されるものらしい。

要するにいつものやつさ。

ギュムナジウムはユダヤ人にとって異教の象徴でもあったわけだ。

毎度、みみっちいこと!

ほんの些細な接触も許されないだなんて。

まったく滑稽な民族ですわね。

せやけど大事なところや。

国が分断されたり、捕囚になったり。

そういった苦難を乗り越えてこれたんは信仰の強さかもしれへん。

そしてあろうことか、ギュムナジウムの建築を進めたのはユダヤ人自身だ。

ヤソンという男が策を弄して大祭司職を手に入れ、ギリシア主義を奨励した。

その一環としてギュムナジウムの建築があったというわけさ。

ヤソンを中心として、旧来の儀式を疎かにし始めた。

五種競技ペンタトロンを行い、ギリシア風の栄誉を最高のものとした。

被支配国ともなればよくある話ですわね。

名を変える、崇める神を変える、色々ありましてよ。

ヤソンはギリシアの神ヘラクレスに生贄を捧げる費用まで用意した。

その資金は他のユダヤ人によって別の用途に用いられたけれどね。

ヘラクレスか。

いっぺん、勝負してみたい相手やな。

およしくださいませ。

お姉さま相手では12分ともちませんわ。

かつて同じ場所で、フェニキアの神メルカルトが祭られていたという。

後にメルカルトとヘラクレスは混同され、崇められるようになったんだ。

国も国やけど、神も神やな。

あっちこっち生まれては消え、くっついたり離れたり。

神々を追いかければ、国境よりも文化的な境界が見えるかもしれへんな。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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