1.ゼルバベルの神殿再建

文字数 1,056文字

多くの収穫を期待したのに、僅かであった。

お前たちがそれを家に運び入れたとき、わたしはそれを吹き飛ばしてしまった。

なぜなのか――と万軍の主は仰せになる。

それはわたしの神殿が荒れたままなのに、

お前たちはそれぞれ自分の家のために忙しくしているからだ。

構ってちゃんか!
何せ、とても嫉妬深い神ですから。

自分が優先されなければ怒り始めるのです。

『ハガイ書』の主役、預言者ハガイが活躍したのはバビロン捕囚後。

エルサレム第二神殿建設の時期というわけさ。

彼の呼びかけは、神殿再建を推し進める意図があったんだ。

捕囚から帰ってきたばかりやから、農作業も再開したところか。

軌道に乗るまで難しいやろけど、神殿建てたらうまくいく言うんやな。

シェアルティエルの子ゼルバベルと、ヨツァダクの子大祭司ヨシュア。

そして残りの民の者はみな、主の声と預言者ハガイの言葉に聞き従った。

バビロニアで信仰は衰えるどころか盛んなご様子。

なんとも従順ではありませんか。

苦しく、追い詰められれば堅固になる。

信仰とはそういうものさ。

ゼルバベルはシリア王キュロスの勅命を受けて神殿再建に着手した。

しかし捕囚にあわなかったイスラエル人やサマリア人たちの妨害で中断。

預言者ハガイの言葉は、神殿再建の再開を促すものだった。

捕囚民は信仰にすがって生きるしかなかった。

逆に残された人らは、周辺に合わせた方が安全や。

互いに仕方ない選択やったと思う。

しかし数十年も離れてしまえば価値観は大きく変わるもの。

衝突が起きたとて、何の不思議もございません。

神殿再建は決して容易な仕事ではないというのも頷ける話ですわね。

ハガイは言った、

「もし死体に触れて汚(けが)れた人が、食べ物に触れたらそれは汚れるだろうか」

祭司たちは「汚れる」と答えた。

そこでハガイは次のように言った。

「この民も、この国も、わたしにはそれと同じようなものだ」

なんやいきなり。

人に向かって汚れてるとか失礼な奴やな。

ここで死体ってのは神殿の暗喩だろうね。

崩れたままの神殿はまさに死体さ。

神殿が再建されないままだと、捧げものも汚れる。

その汚れが民や国に広まっていくということを言っているんだ。

嫉妬深くて潔癖症。

お友達にはなれそうもありませんわ。

そりゃそうだ。
シェアルティエルの子、わたしの僕(しもべ)、ゼルバベルよ。

わたしはお前を取り、印章の指輪のようにする。

わたしがお前を選んだからだ――万軍の主の言葉。

主の僕。

ゼルバベルは神の代理者としての権威を手に入れた。

ゼルバベル。

彼もまた、イエス・キリストの系譜に連なる人物なのさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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