1.ソロモンの即位

文字数 1,187文字

「シュナミティズム」と言ってね。

処女と添い寝をすることで若さを回復しようとする迷信さ。

蝸牛くもの小説『ゴブリンスレイヤー』でも似たようなのがあるね。

処女同衾による蘇生(リザレクション)の魔法。

気持ちは分からんでもないなあ。

若い子と一緒におったら若返ったみたいな気分になるやつやろ?

ミカちゃん、年いくつ……?
古い迷信だけれど、その息はけっこう長い。

18世紀オランダの医者、ヘルマン・ブルーハーフェは患者にシュナミティズムを処方したらしい。

それで。

この老人と女の絵は何ですの?

老人はダビデ。

もう一人はアビシャグと言って、ダビデの身体を温めるためにあてがわれた美少女だよ。

絵を描いたのはペドロ・アメリコだね。

ブラジルのアカデミック絵画の画家さ。

ダビデは老いて、そろそろ後継者を決めないといけない。

預言者ナタンがソロモンを指名したけれど、ダビデの正式な決定はまだなんだ。

跡継ぎ問題は古今東西悩みの種やで。

はよ決めへんと、また何か問題起きるんとちゃうか?

まさしく。
ダビデの四男アドニヤは自分こそが王になるべきと考えた。

ヨアブと祭司アビアタルはアドニヤを支持した。

それを知ったソロモンの母バト・シェバはダビデに願い出た。

ソロモンこそが次の王であることを告示するように。

ついに、あの憎たらしいソロモンのお出ましというわけ。
他の草ども同様に右往左往する様を見届けさせていただくわ。
ちゅうか、ヨアブがアドニヤ側におるやん。
結局、ダビデはソロモンを正式に跡継ぎに指名する。

結果的にダビデとヨアブは対立することになった。

そしてダビデはソロモンに遺言を残す。

「あの白髪頭(ヨアブ)を安らかに陰府(よみ)に下らせてはならない」

散々自分の汚れ役に徹してくれたヨアブを「白髪頭」呼ばわりか。

ヨアブも報われへんな。

僕らは悪魔だからヨアブに同情的だけどね。

一般的な教会だと、ヨアブを悪者扱いしているよ。

ヨアブは傲慢で執念深く、悪辣な人物だってね。

うちは天使やで。
存じておりますわ、お姉さま。
ダビデはエルサレムに葬られた。

彼は40年に渡り、イスラエルを治めた。

アドニヤはソロモンの母バト・シェバに、アビシャグを妻にしたいと願った。

母親からの頼みをソロモンは断れないだろうとの考えであった。

バト・シェバはソロモンにそうするよう言ったが、ソロモンは拒否した。

ソロモンは刺客のベネヤを送り、アドニヤを討った。

嫁さん欲しい言うただけやん。

ソロモンもアビシャグが好きやったんかな。

ソロモンはアビシャグを求めることは王位への願望ではないかと疑ったらしい。

それで殺すことにしたんだよ。

ソロモン自身がアビシャグをどう思っていたかは分からない。

ただ、聖書の『雅歌(がか)』における「ソロモンの歌」

そこに登場する女性の主人公がアビシャグではないかと言う学者がいる。

とすれば、やはりソロモンもアビシャグを愛していたのかもしれないね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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