1.ルカ文書のテオフィロ

エピソード文字数 1,122文字

五つ目の新約聖書は『使徒言行録』

これは『ルカによる福音書』と合わせて「ルカ文書」と呼ばれている。

『使徒言行録』はイエスが復活し、また昇天した後の話だ。

具体的にはペトロとパウロの活躍について語っている。

そして異論はあれど、その著者が伝統的にルカだと考えられている。

ふむふむ。

『ルカによる福音書』と『使徒言行録』が同じ著者やと……。

そんな風に考える理由は何かあるんか?

まあ、もったいぶる話でもない。

最初の部分を読めば分かるよ。

『ルカによる福音書』第1章3節

尊敬するテオフィロさま、わたしもまた、すべてのことを初めから詳しく調べましたので、

あなたのために、それを順序立てて書き送りたいと思います。

『使徒言行録』第1章1-2節

テオフィロさま、わたしは先に第一の書において、イエスが行い、また、

教え始められてから、ご自分がお選びになった使徒たちに、

聖霊の働きによって指図をお与えになり、

天に上げられたその日までのことをことごとく書き記しました。

テオフィロ……。

古代ギリシア語でテオは「神」、フィロは「愛する」の意味ですわ。

さしずめ「神に愛されし者」といった意味の名前になるのかしら。

もしくは「神を愛する者」とか「神の友」なんて解釈もあるね。

テオフィロが何者かという話も色んな説がある。

エジプトの都市アレクサンドリアに住むユダヤ人という説。

はたまた、何者でもなく一般聴衆を指す言葉だというものもある。

他にはパウロの弁護士とか、ユダヤ人司祭とか。

具体的にタイタス・フラウィウス・サビヌスというローマの政治家という説。

例のごとく、決定的な証拠は無いね。

そのへんはっきりせんでも、二つの書物が一つの流れにあることは確かやろな。

テロフィオなんて名前、他の福音書には出てこおへんのやし。

テオフィロの名だけではなく、言語学的、神学的な類似性も指摘されている。

例えば『ルカ』では百人隊長が僕(しもべ)を癒やすためイエスに使いを送る。

『言行録』でも百人隊長がいて、彼はペトロの話を聞くために使いを送った。

もちろんそれだけじゃない。

民衆を復活させる奇跡や、その復活を否定するサドカイ派との対立。

様々な場面において、この二つの書物は似たところがあるのさ。

細かな類似性など、指摘したところで何の確証もございませんが。

テオフィロの一件をもって、二つの書物を繋げることに異論もなし。

強く否定するようなこともありませんわね。

なんやかんや言うて、イエス様の物語は有名や。

新約聖書読んでへんくても、処女懐胎と十字架のことは知っとる人が多い。

せやけど、イエス様が死んで、復活した後のことはあんま知られてへん。

『使徒言行録』は初期キリスト教を知る上で重要な話や。

今から見ていくんが楽しみやで。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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