1.審判の宣言

エピソード文字数 1,042文字

『ヨエル書』がいつ書かれたものなのか諸説ある。

それは捕囚以前であったり、捕囚以後だったり様々だ。

ともあれ、ここでは時期はさほど重要ではない。

……と、フランスの神学者ジャン・カルヴァンなんかは言っているらしい。

その内容はとても暗示的だ。

人々の悔い改めに、神の応答を示している。

そんなだから、時代を超えて通用する内容とも言えるね。

噛み食うイナゴ、移住イナゴ、飛びイナゴ、食い荒らすイナゴが食った。

目を覚ませ、ぶどう酒に酔いしれる者よ、そして泣け。

酒飲みよ、みな泣き叫べ。

まーた、イナゴの群れか。

こいつら食べてもええんやけど、食物保存でけへんからな。

それに虫よりもやっぱ、ふわふわのパンの方が食べたいやろ。

ここで語られる、ぶどう酒。

これもやはり、わたくしことバアルの象徴かしら。

バアルはウガリトにおける豊穣の神だからね。

偶像崇拝に酔いしれていたら、イナゴの大軍に畑をやられてしまった。

それと続く言葉を見れば、イナゴは敵軍のメタファーだったのかも。

一つの民がわたしの地に攻め上ってきたからだ。

それは力強く、数えきれない。

その歯は雄獅子の歯、その牙は雌獅子の牙。

『箴言』第30章27節

「イナゴには王はいないが、みな隊を組んで出かける。」

軍に王がいないなんてことは無いだろうけどね。

やはりイナゴは軍隊を意味しているんじゃないかな。

それやとやっぱり『ヨエル書』が書かれたんは、捕囚前か?

いや、捕囚後でも戦争はしょっちゅうやしな……。

結局そのへんは分からんから、裏の意味を読み取るべきってことやな。

お前たちの衣服ではなく、心を引き裂き、お前たちの神、主に立ち返れ。

主は恵み深く、憐れみ深い。

怒るに遅く、慈しみ溢れ、災いを思い留まられる。

怒ったらめっちゃ怖いけどな。
服を引き裂くのは感情の高ぶりを表現しているのでしたわね。

ユダヤ人には特別破りやすい服でも用意すれば売れるのではないかしら。

『列王記下』第22章11節

(失われたと思われた律法の書が偶然見つかったとの報告を受けて)

その律法の書の言葉を聞くと、(ユダ王国のヨシヤ)王は衣を裂いた。

服だって安いもんじゃない。

そんなしょっちゅう引き裂かれてはたまらない。

人々の悔い改めに対し、神は慈悲を与える。

イナゴの大群にやられた被害を償おうとさえ言う。

そしてその後に語る言葉は非常に黙示的だ。

わたしは天と地に不思議な徴を現す。

血と火、そして煙の柱である。

偉大な、恐るべき主の日を前にして、太陽は闇と化し、月は血に変わる。

しかし、主の名を呼ぶ者はみな救われる。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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