1.イクリージアスティーズ

文字数 993文字

『コヘレト』は聖書における知恵文学の一つ。

ヘブライ語の「コヘレト」はギリシア語で「イクリージアスティーズ」と訳されている。

西洋ではそれに倣って、例えば英語だと「Ecclesiastes」となる。

『コヘレト』は「エルサレムの王、ダビデの子、コヘレトの言葉」で始まる。

伝統的にコヘレトというのはソロモンの仮名だと言われてきたんだ。

ただ、そうではないと主張する学者もいて、明確な証拠はない。

ダビデとソロモンはあっちこっち引っ張りだこの人気者やな。
それにしても……

『ヨブ記』やら『箴言』やら。

いかにも説教臭い話が続きますこと。

いささか退屈し始めてまいりましてよ。

まあまあ。

ここを乗り越えれば『雅歌』というラブソングだ。

そういうのは好きだろう?

それに『コヘレト』もなかなか味わい深いものだよ。

特に西洋文学への影響がとても大きい。

例えばウィリアム・シェイクスピア自身の詩で『コヘレト』に似た文章を書き残した。

『アンナ・カレーニナ』で有名なレフ・トルストイ。

彼は『懺悔』という短編小説の中で、『コヘレト』の影響について述べた。

アーネスト・ヘミングウェイ初の長編小説『日はまた昇る』

このタイトルは『コヘレト』第1章5節の引用だ。

「日は昇り、日は沈み、元の所にあえぎ戻って、また昇る」

ヘミングウェイは『老人と海』なら読んだことあるわ。

おじいちゃん、よう頑張っとったで。

まあ、サタニャエルがそこまで言うのなら、お付き合いいたしましょう。
(僕としてはどっちでもいいんだけど……)
せやけど、そんだけの影響力を持ってるってのも気になるな。

実際のとこ、『コヘレト』ってどういう話なんや?

一言で表せば「中庸」を説くものだよ。

どれほどの知恵を求めても、富や名声を得ても、それらは空しいもの。

空しいと言っても決して悲観的というわけでもない。

つまり、バランスを取れ、と。
She said the balance is the most beautiful,yeah...♪
お姉さまはガレージロックがお好きでしたか。
空の空。一切は空。

日の下でどのように労苦しても、それが人に何の益になろう。

「空」はヘブライ語で「ヘベル」

「息」とか「蒸気」という意味で、「空しい」とか「無」と訳される箇所だ。

「一切は空」なんて、どことなく仏教的な響きがあるね。

まあ、人間、心のどっかで繋がってるもんや。

せやから世界中で似たようなこと考えよる。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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