19.クレオパトラ・テア

文字数 1,606文字

世間一般で「クレオパトラ」と言えばカエサルの妻を思い起こすだろう。

けれど絶世の美女として名高い彼女はクレオパトラ7世。

要するにクレオパトラという名前の女性は大勢いる。

中でもクレオパトラ・テアはクレオパトラ7世に負けず劣らぬ……

いや、はるかに波乱万丈な人生を送ったと言っても過言ではない。

アレクサンドロス1世バラスは、エジプト王プトレマイオス6世と縁を結んだ。

彼の娘、クレオパトラ・テアを妻に迎えたのだ。

彼らはプトレマイスにおいて荘厳な結婚式を執り行った。

プトレマイオスとプトレマイスがごっちゃになるな……。
正直に告白すると、最初プトレマイスってエジプトらへんの町だと思ってた。
素敵な結婚式ですこと。

わたくしもいつかお姉さまと……。

結婚後、アレクサンドロス1世バラスはヨナタン・アフスを召喚した。

ヨナタンは金銀財宝を献上し、正式に将軍兼総督となってエルサレムに戻った。

しかし、バラスとクレオパトラ・テアは末永く幸せに暮らしました……

とは残念ながらならないのさ。

サタニャエルくん楽しそうやな。

とても残念な風には見えへんで。

言ったろう?

クレオパトラ・テアはクレオパトラ7世以上に波乱万丈な人生を歩むって。

平坦な人生など見ても退屈ですわ。

それで、どのような方でしたの?

アレクサンドロス1世バラスが殺したデメトリオス1世ソテル。

彼にはデメトリオス2世ニカトルという子供がいた。

なんとエジプト王プトレマイオス6世はニカトルと結託してバラスを殺してしまう。

なんでやねん。

自分の娘婿やろが。

領土的野心があった、と聖書は語っている。

そしてクレオパトラ・テアはデメトリオス2世ニカトルの妻になる。

それはそれは……。

確かに波乱万丈ですわね。

バラスとクレオパトラ・テアの間には息子がいた。

彼の名はアンティオコス6世ディオニュソス。

その彼を擁立してニカトルに反旗を翻したのがディオドトス・トリュフォン。

聖書でも後で触れるけどね。

ディオニュソスはトリュフォンに殺されてしまう。

手術中に死んだという説もあるらしいけれど、聖書では殺されたことになっている。

自分の息子がいいように利用されて殺されたんか。

クレオパトラも悲しんだやろな。

だろうね。

この後の彼女の態度にも繋がってくると思うよ。

クレオパトラ・テアの新たな夫となったニカトルだけど。

アルサケス朝パルティアとの戦争に負けて捕虜になってしまう。

ニカトルの弟アンティオコス7世シデテスが王となり、クレオパトラ・テアと結婚した。

3人目の夫!

パルティアはニカトルとシデテスが争うことを期待して、ニカトルを解放した。

けれどシデテスはパルティアとの戦争に負けて戦死してしまった。

結果、ニカトルはただ解放されて、またクレオパトラ・テアを妻とした。

無茶苦茶やな。

3人の夫で、4度目の結婚か。

このへんはもう『マカバイ記』よりも後の歴史だけどね。

アレクサンドロス2世ザビナスという男がニカトルと戦って勝つ。

彼はプロタルクスという商人の子と見られるが、シデテスの子ではとも言われている。

ダマスカスでの戦いに敗れたニカトルはクレオパトラ・テアの元に逃げてきた。

しかしここでクレオパトラ・テアはニカトルを締め出してしまうんだ。

子を死なせた者に対する恨みが残っていたのかしら。

逃げ帰る夫を殺すとは、よほどの感情ですわね。

話はまだ終わらない。

後にニカトルの子、セレウコス5世フィロメトルが王となった。

しかしクレオパトラ・テアは彼を殺害。

もう一人のニカトルの子、アンティオコス8世グリュプスと共に政治を行った。

もはや波乱万丈通り越して、なんやよう分からんくなってんな。
グリュプスが制御出来なくなってくると、クレオパトラ・テアは彼も殺そうとした。

しかし彼女は返り討ちに遭って、死んでしまった。

ここまで来ると、当人の欲がどうのという話ではありませんわね。

彼女自身、いったい何を求めていたのか。

まさに迷える子羊だったのでしょう。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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