11.黄金律

エピソード文字数 1,084文字

裁いてはならない。裁かれないためである。
イエスの山上の説教はいくつもの箴言が出てくる。

前回話した「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」もその一つだったね。

裁かなかったら裁かれへんって、いまいち分からんな。

何をせんでも裁かれる時は裁かれるやろ。

この箇所は『マタイによる福音書』第6章14節に呼応している。

そこでは、人の過ちを赦せば自身も神に赦されるとある。

また「裁いてはならない」に続けて、自分の目が節穴でないかを戒めている。

己の過ちについてよくよく考えて相手に接しろというのさ。

あら意外。

わたくし、他者を罵るキリスト教徒をよく見てきましたわよ。

理想と現実はいつも異なる。

そして「正しさ」で他者を殴る手合いも多々いる。

そこが人の限界だね。

悲しいなあ。

みんな、仲良うできたらええのんに。

聖なるものを犬に与えてはならない。

また、あなた方の真珠を豚に投げ与えてはならない。

「豚に真珠」の由来やな。
同義語は「サタニャエルに小判」ですわね。
ご存知、貴重なものを価値のわからない者に与えても無意味であることのたとえだね。

ちなみに僕は金が嫌いじゃないよ。

悪魔は財宝のありかくらい知っておかないといけないし。

求めなさい。そうすれば与えられる。

探しなさい。そうすれば見出す。

たたきなさい。そうすれば開かれる。

欲しいものを何でもいただけると?

これはこれはご親切に。

もちろん、そういう意味じゃない。

求め、探し、扉を叩く行為は全て祈りに繋がる。

20世紀に活躍したオーストラリアの神学者レオン・モリスの言による。

人は神に答えを求める時、すでに神を通して自身の内に答えを持っている。

人は自分に必要な物を知らず、それが何かは神を通じて探すことが出来る。

聖公会の教区牧師リチャード・トーマス・フランスによれば、

扉を叩く行為とは、神の王国に至るため、許可を得る暗喩だと言う。

やば。

うち、ノックとかなんもせんと出入りしとったわ。

今度から気ぃ付けた方がええかな。

問題ございませんことよ……おそらくは。
だから、何事につけ、人にしてもらいたいと思うことを、人にしてあげなさい。

これが律法と預言者の教えである。

この言葉は説教の総まとめだ。

色々言ったけれど、大事なことは相手のことをよく考えろってことだね。

ここだけ抜き出して、自分勝手なことを相手に押し付けてはいけない。

確かに、文脈ってもんがあるわな。

自分がたこ焼き食べたいから言うて、たこの嫌いな人に食わせるもんちゃう。

『トビト記』で聞いた場面ですわね。

第4章15節の先頭「お前自身が嫌うことを他人にしてはならない」

イエスの教えはそれをより能動的に変えております。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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