4.娘が生まれるのは損失

文字数 1,053文字

怠け者は一握りの排泄物に似ている。

これをつかむと、人はみなその手を振り払う。

怠け者はうんこか。

どストレートな物言いやな。

怠惰な人間に対する嫌悪感を表現しているね。

論理的に罪を語るよりも、人の直感に語り掛けてくる。

躾の悪い息子を持つのは父親の恥。

娘が生まれるのは、損失である。

損失だなんて。

生まれた子が男だろうが女だろうが関係ないでしょう。

どちらも大事な子供でしてよ。

結婚の時、娘に持参金持たせたりするからなあ。

そのへんのこともあって、損失言うたんちゃうやろか。

持参金の習慣は世界各地で見られるけど、その詳細は様々だ。

ルネサンス期のイタリアを描いたもので、

大久保圭(おおくぼけい)の『アルテ』という漫画があってね。

そこで持参金に関するトラブルを題材にした物語があるんだ。

物語の詳細は省くけれど、そもそもなぜ持参金が必要なのかが描かれていた。

嫁いだ女性が未亡人になっても、生きていけるようにというものだと言う。

女性が持参金持たな結婚できへんとかどうなんって思ってたけど。

ちゃんと合理的な理由があるもんやな。

元は合理的だったけれど、形式だけ残って無意味なことも多いけどね。
『レビ記』第12章には、女性の産後について規定がある。

男の子を生んだら産婦は清めのために33日間籠れと言う。

それが女の子の場合は倍の66日間になるんだ。

ゲマトリア(数秘術)かしら。

神学的な意味があるとしても、合理的な意図は見えませんわね。

女の子を生んだら男の子の時よりも長く籠らなければならない。

それだって「損」の一つになりうるよね。

思慮深い娘は夫の宝。

しかし、恥知らずの娘は父親の悲しみ。

さて。

さっき持参金について話したけれど、実はユダヤの女性にそうした習慣は無い。

自身の人格、道徳、そして様々な才のみを持って嫁ぐのさ。

持参金無しか。

そらええわ。

考えてみたら、ユダヤの「善い妻」は自分で稼ぐんやった。

いざという時の持参金も必要なかったんやろな。

しかし持参金でないとしたら、何を持って「損失」としたのかしら。

たかだか1ヶ月、清めの期間が延びた程度でそこまで言うものとは。

合理的な理由と言うより、信仰の問題だろう。

タルムードにもこう書かれているらしい。

「男は、奴隷あるいは女に生まれなかったことを感謝すべき」ってね。

奴隷と女を並べるんは、もやっとするな。
時代に合わない考え方も聖書にはたくさんある。

ユダヤ人の中で割礼に反対する人たちもいるくらいだ。

聖書を鵜呑みにすることはない。

とは言え蔑ろにしてもいけない。

手探りでうまくやっていくことだね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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