7.ベル神と竜神

エピソード文字数 1,472文字

時代は下り、アケメネス朝ペルシア。

イスラエルの民を捕囚から解放し、唯一異邦人で「メサイア」と呼ばれたキュロス王。

ダニエルは彼の側近として活躍していた。

キュロスはベル神を崇めていた、と『ダニエル書』は語る。

実はキュロスが特定の信仰を実践していたという証拠はない。

一般的にはゾロアスター教徒だと考えられてはいるけどね。

人間、信仰が変わることもあるからな。

ベルみたいなバビロニアの神々を拝んどったことがあるかもしれん。

ある日、キュロス王はダニエルに「なぜベル神を崇拝しないのか」と聞いた。

ベル神は生ける神で、日々飲み食いをしていると言ってね。

それに対してダニエルは笑って答える。

王様、騙されてはいけません。

あれは内側は粘土、外側は銅でできています。

食べたことも飲んだことも決してありません。

銅像が飲み食いをするなどと、信じる者がいまして?

供え物はあくまで儀式的なものでしょうに。

ここでの表現は、異教徒は銅像が飲み食いをすると信じる愚か者……

こんな風に当時のユダヤ人は思っていた、かもしれないくらいの話かな。

何にせよ王様は怒ってダニエルと賭けをした。

神殿を密閉することで、供え物が無くなればベル神が食べたのだと証明される。

もし食べ物が無くなっていればダニエルは死刑となる。

目の前で食べるかどうか見てたらええのに。

ベル神はシャイボーイなんかな?

実は神殿内部には隠し扉があった。

ベルの祭司たちはそこから侵入して、ベル神への供え物を食べていたんだ。

ダニエルはそれを察していたんだろう。

キュロス王の見ている前だけでこっそり神殿内に灰をまいた。

祭司たちはいつものように、妻と子らを連れてきて、すべてを平らげた。
お供え物を家族総出でちょろまかすとは。

はしたない。

しかし後から見れば灰の上に足跡だらけ。

結局キュロス王にバレて祭司たちは妻子共々死刑となった。

『ダニエル書』ではベル神だけでなく竜神についても書かれている。

なんとキュロス王は生きている竜を飼っていて、それを崇拝していたんだとか。

銅像とは違って生きているのだから、これを拝めと王はダニエルに迫った。

竜かどうかは知らんけど。

生き物がおって、それを「神」や言われたら「生ける神」とは言えそうやな。

生きてはいるけれど神ではない。

ダニエルはそれを証明するため、王の許可を得て竜に団子を食べさせた。

すると竜の体が裂けて死んでしまった。

竜が死ぬような団子ってなんやねん。
ピッチ、油脂、髪の毛を一緒に煮詰めたものだと言う。

ピッチは「コールタールなどを蒸留した後に残る黒褐色の粘質物」のこと。

竜の体を裂くかどうかは知らないけれど、食べたら死ぬだろうね。

髪の毛を一緒に煮詰めるなど。

まるで呪いのよう。

こうして竜が「生ける神」ではないことを証明したのさ。

けれど祭司たちが騒いでダニエルを渡せと王に迫った。

祭司たちはさもなくば王とその一族を殺すとまで脅迫し始めた。

キュロス王はダニエルを渡して、彼らはダニエルを獅子の洞窟に投げ入れた。

またか。
ユダヤにハバククという預言者がいた。

主の使いが現れ、食べ物を持ってダニエルのところに行くように告げた。

しかしハバククはバビロンも洞窟も知らなかった。

主の使いはハバククの髪の毛をつかんで持ち上げ、洞窟にまで運んだ。

ハゲたらどないすんねん!
想像するとちょっと辛いものがあるよね。

ともあれダニエルはまた生き延びた。

そしてキュロスは神の力を確信してダニエルを助け、

ダニエルを殺そうとした人たちを洞窟に放り込んだ。

彼らには当然、神の加護もない。

洞窟の中であっという間に獅子に食われてしまったとさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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