8.ペルシア王キュロス2世による解放

文字数 898文字

『列王記』と『歴代誌』はユダ王国の滅亡までほぼ同じ流れだ。

ただ『列王記』に比べると若干、ユダ王国の記載が細かになっているね。

久しぶりに過越の祭りもやっとったな。

言うて地味な話やし、さくっと飛ばしてもええやろ。

さすがお姉さま。

天使にあるまじきお言葉。

と言っても、『歴代誌』最後の場面はさすがに飛ばせないね。

バビロニアに代わってペルシアが覇権を握った、その後のことが記されている。

ペルシア王キュロスの第一年。

神様がキュロスの心を動かし、彼は次のような布告を文書で出した。

「主は地上のあらゆる王国を予に賜った」

「ユダのエルサレムに、ご自分の家を建てるよう予に委ねた」

「主の民に属するお前たちは誰でも上って行くがよい」

キュロス2世はアケメネス朝ペルシアの創始者だ。

彼はバビロニアを支配すると、そこに集められた異民族を解放した。

その中にはもちろんユダの民も含まれていたんだ。

珍しいな。

異教の神々はやっつけるんが普通やと思っとったわ。

その政治により、キュロスは多くの民族から尊敬の念を受けた。

まず自国民であるペルシアの民は、キュロスを父と呼んだ。

古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの『歴史』にそう書いてある。

また、ヘロドトスより後世のギリシア人からも敬意をもたれていた。

例えば哲学者プラトンの『法律(対話編)』に示唆されている。

キュロスは自由と奴隷制のバランスをよく制御した人物として語られるんだ。

征服されたバビロニアの神官はキュロスをマルドゥークに任じられた者と見た。

キュロス自身はゾロアスター教徒だけれど、異国の神からも支持を受けたわけだ。

大絶賛ね。

これはソロモンでも太刀打ちできない評判でしょう。

自分とこの神様まで使って相手を褒めるとか。

なかなかあらへんわな。

ほんで?

ユダヤ人にとってキュロスはどういう評価なんや?

破格の評価だよ。

キュロスは『イザヤ書』の中で「油注がれた者」と表現された。

つまり、イスラエルの王や預言者に匹敵する存在だと見なされたのさ。

すごいやん。

外国人で油注がれたんはキュロスが初めてちゃうか?

「油注がれた者」はヘブライ語で「メサイア」

まさしく彼はユダヤ人たちにとって救世主でありました。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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