12.イスラエル人の繁栄

文字数 921文字

飢饉は極めて激しく、全地に食料が無くなった。

エジプトの地にもカナンの地にも銀が尽き果てた。

ヨセフはエジプト人たちに、家畜と引き換えに食料を与えると告げた。

いよいよ家畜も失われた時、土地を買い取り、エジプト人たちを奴隷にした。

なんか、急にきな臭くなってへん?

エジプトの地でイスラエル人がエジプト人を奴隷に?

正確に言えばここではファラオの奴隷であって、ヨセフのじゃない。

でも、実質的にはヨセフの奴隷だったと読み取れると思う。

ヨセフは祭祀の土地だけは買い取らなかった。

それはファラオが祭祀に給付を与えていたからだと言う。

だったら、その他の民だってファラオが救えば良かった。

でも実際に動いていたのはヨセフなんだ。

よその土地に根付いて、上手に金を儲ける……。

なんかひともんちゃくありそうやな。

創世記の最後はヤコブによる祝福、遺言、死でしめくくられる。

ヤコブの子どもたちがいわゆるイスラエル12部族に分かれるんだ。

中でもちょっと注目したいところを見てみよう。

シメオンとレビはまさしく兄弟、

彼らの剣は暴虐の道具。

わたしの魂よ、彼らの謀議に加担するな。

わたしの心よ、彼らの集いに加わるな。

彼らは怒りに任せて人を殺し、

やみくもに雄牛の足の筋を切った。

呪われよ、彼らの怒りはあまりに激しく、

その憤りははなはだしい。

わたしは彼らをヤコブの間に分け、

イスラエルの中に散らす。

あれ?

祝福、言うてへんかった?

「呪われよ」とまで言っているね。

無理やりな解釈でこれを「祝福」とするのはちょっと苦しいかな。

死の間際でさえ人に嫌がらせをする。

さすがやで。

これには、それなりの理由があるんだよ。

ヤコブはシメオンとレビのせいで窮地に立たされたことがあってね。

彼らには彼らなりの言い分があったけれど、もっと穏便にやれという話。

それより僕がここを取り上げたのは、レビの存在があるからなんだ。

これ自体の解釈も面白そうだけどね。

レビは次の『出エジプト記』の主役、モーセに連なる系譜の祖なんだよ。

なんや。

うちはてっきり、次の主役はヨセフの子孫やと思ってたんやけどな。

創世記はここまでだね。

次の『出エジプト記』は、一般の人が『聖書』と聞いて思い浮かぶ場面No.1のあれが出てくるよ。

楽しみやな。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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