2.知恵の価値

エピソード文字数 1,093文字

『知恵の書』第6章から第9章にかけて、知恵への賛辞が行われる。

知恵がいかに素晴らしいものかをこれでもかと語るんだ。

そしてまず知恵を持つべき者として「王」を示す。

上に立つ人々にはきびしい裁きがある。

知恵を学んだ者は、弁明のすべを見出すだろう。

ノブレス・オブリージュ。

地位と権力、財産を得たからには相応の責任を負わなあかん。

王様が一所懸命勉強すんのは当然のことやな。

プラトンの語る「哲人王」などもそれに近い気がいたしますわ。

幅広い知識に清貧の徳。

王政の国家において、優れた王を戴きたいと願うは道理。

哲学者のカール・ポパーは哲人王を強く批判しているね。

そのような考え方はヒトラーやスターリンといった全体主義に結びつくと言う。

まあ、時代が違うからなんともだけど。
知恵は輝かしく、衰えることがない。

知恵を愛する者にはたやすく見つけられる。

知恵は自分を求める人々に自ら姿を現す。

知恵の始まりは教えを受けようというまことの望み。

教えを受けようという心構えは知恵への愛である。

このあたり、承服しかねますわね。

知恵が自ら姿を現すですって?

どれほど強く求めても手に入れられぬのが知恵でしょうよ。

容易に手に入れられるものは知恵ではなく表層に過ぎません。

闇の中、海の底に深く潜り、もがき苦しんでなお見つからぬものこそ知恵。

表層で喜ぶ者が他者を罵るところをよく見かけましてよ。

僕もビヨンデッタに同意だね。

「たやすく」というのがそのままの意味かは知らないけれど。

知恵は神の力の息吹。

全能者の栄光から発する清い流出。

汚れたものは何一つその中に入らない。

知恵に対する賛辞は続く。

『知恵の書』で知恵には「聖なる霊」があると語っている。

また、「悪が知恵に打ち勝つことはない」とも言う。

もはや、知恵は神そのものなんじゃないかという勢いだ。
実際のところ、王様に知恵があれば強いわな。

よそから見て賢い王様やったら、簡単には倒せん思うやろ。

結果論やけど、負けた王様は知恵が足りんかった。

せやから滅びた時の王様は「暗君」言われるんやで。

その点、日本の江戸幕府、最後の将軍はうまく立ち回りましたわね。

幕府を滅亡させながら、徳川家康の再来という評価はさほど傷ついておりません。

色々言われておりますが、それゆえに徳川慶喜という男は面白い。

先祖の神、憐れみの主よ、

あなたはみ言葉によって万物を造り、知恵をもって人を形づくられました。

後の『ヨハネによる福音書』第1章1節「初めにみ言葉があった」に通じる箇所だね。

神は「み言葉」によって万物を造った。

つまり「み言葉」は最初から神と共にあったということだ。

知恵で人をこしらえたんか。

そら大事やわ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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