3.メシャ碑文

文字数 1,336文字

メシャ碑文。

モアブの王メシャが作らせたとされる、フェニキア文字で書かれた石碑だよ。

黒色の箇所は復元されたところになる。

モアブっちゅうたら、絶賛イスラエルと交戦中やなかったか。
モアブはイスラエルの支配を受け、イスラエルを宗主国として朝貢を続けていた。

強力な王であるアハブが死んだことを幸いに、独立のための反逆を起こすんだ。

メシャ碑文にはその時のことが書かれている。
反逆を起こし、どうなりましたの?
結果はモアブの勝利さ。

「イスラエルは敗北した」と書かれている。

あらあら、と言うことはイスラエル王は神の怒りを買ったのね。

この時の王は確か、ヨラムでしたかしら。

ところがそうでもない。

実は戦いの前にエリシャはこう預言したんだ。

「主はあなたたちの手にモアブをお渡しになる」って。

では預言が外れたと?
ここが難しいところでね。

聖書ではイスラエルが敗北したとは書かれていない。

ただ、イスラエルが撤退したという風に書かれている。

つまり、聖書とメシャ碑文とで内容に食い違いがある?
立場が変われば見え方も違うだろうさ。

とりあえず聖書に戻って様子を見てみようか。

モアブの反乱を鎮圧するべく、イスラエル王ヨアブは周辺国に助力を願った。

ユダ王、エドム王が協力し、三ヶ国連合軍はモアブに進軍した。

道中、預言者エリシャに預言を頼んだ。

エリシャはユダ王ヨシャファトを尊敬するがゆえにその頼みに応じた。

エリシャはイスラエルの連合軍が勝利すると預言を述べた。

雨が降り、大きな水溜りが生まれ、太陽がそれを照らした。

それはまるで血のように赤く、モアブ人は同士討ちが起きたと勘違いした。

攻めかかってきたモアブ軍をイスラエル連合軍は撃退した。

勢いに乗り、町々を破壊し、モアブ王メシャを追い詰めた。

メシャは700人の兵を引き連れて突破を試みたが失敗した。

イスラエル強いな。

メシャはなすすべも無いやないか。

せやけど、そんでどないしてイスラエルが撤退するんやろ。

逆転ホームランでも打たれるんか?

それに近いことを彼らはやってのけたのさ。
モロクじゃない。

元気そうで何より。

こいつか。

子供を生贄に求める外道。

モアブ王メシャは自らの信じる神ケモシュに息子を生贄として捧げた。

モロクというのはケモシュの別名だね。

マリクもしくはモロクで「王」の意味になる。

追い詰められて狂ったか。

自分の子を殺してまうなんて。

犠牲が大きければ大きいほど願いの力は強くなる。

生贄とは古来よりそういうものさ。

その思いの強さゆえか、モアブ軍は猛り狂った。

そしてイスラエルは撤退していった。

モアブ軍の威勢に恐れをなしたのね!
聖書には何も書かれていない。

何故、優勢だったイスラエル連合軍が撤退することになったのか。

それは大きな謎として残ったのさ。

20世紀の考古学者ジークフリート・ホーンも満足のいく答えは出ないと言った。

連合軍内で疫病が起きたとか、モアブよりもアラムとの争いを優先したとか……。

色々仮説は出ているんだけどね。

普通に負けて、聖書ではごまかしている。

そういう仮説は出たのかしら?

仮説を出したとして、広く受け入れられるかどうか。

はなはだ疑問だね。

そうでしょうとも。
ともあれモアブとの戦争はこれでしまいやな。

そこについては聖書もメシャ碑文も一致しとるわけや。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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