8.結婚に関して

文字数 1,376文字

捕虜の中に美しい女がいて、彼女を自分の妻にするとき。

その女はあなたの家で、一ヶ月、父母のために嘆き悲しまなければならない。

この後、あなたは彼女の夫となり、彼女はあなたの妻となる。

男からすれば一ヶ月おあずけ、ということかしら。
アキバ・ベン・ヨセフという紀元1世紀末頃のユダヤ教律法学者がいる。

彼によると、一ヶ月とは実際のところ三ヶ月だったらしい。

その間に、捕虜の女が結婚を決意するのを待つのさ。

わたくしならば、千年でも二千年でも待てるわよ。
もし彼女を気に入らなくなったなら、彼女を自由に去らせなさい。

決して売り渡してはならない。

彼女を奴隷のように扱ってはならない。

しかし捨てるのでしょう?

家族を失った女が捨てられて、どうやって生きていくのかしら。

「奴隷のように扱ってはならない」

けれど行き着く先は娼婦くらい?

聖書は基本的に男を軸にして話しているね。

女も大事にしなさい、と男に向かって言っているんだ。

『申命記』には当然ながら、捕虜以外の結婚についても書かれているよ。
娘を妻として与えたが「処女ではなかった」と言いがかりをつけられた場合。

娘の父母は彼女の「処女のしるし」のついた布を広げなければならない。

娘の夫は鞭打ちと罰金刑を科され、生涯彼女を離縁することはできない。

処女であることがそんなに大事なの?

汚れた過去も含めて愛しぬきなさいな。

この頃の道徳として、婚前の性行為は死刑に値する罪なんだ。

処女でないということは、犯罪行為だとも言えるね。

その、「処女のしるし」が示せなかったらどうなるのかしら。

もちろん女が死刑にされる。

石打ちの刑になるのさ。
不倫は死刑である。
当然ね!
(ミカちゃんと気が合いそうなんだけどなあ……)
町中で男が婚約者のいる娘と寝た場合、二人を殺さなければならない。

男は隣人の妻を辱め、女は助けを求めて叫ばなかったからである。


野原で男が婚約者のいる娘と寝た場合、男だけを殺さねばならない。

女が助けを求めて叫んだとしても、救う者がいなかったのだから。


男が婚約者のいない娘を捕まえて一緒に寝ているのを見つけられた場合、

男は娘の父に金を払い、その娘を妻とし、生涯離縁することはできない。

脅迫されたとしたら?

襲われた時に「抵抗できるはず」と考えるのは頭でっかちではなくって?

今の時代ですらそういう「抵抗できるはず」の判例は見かけるからね。
いずれにせよ女に自由恋愛は望めないというわけね。

男の場合は、強硬手段に訴えることもできたのに。

愛する人の心を慮らないなんて、ナンセンスですわ!
(ミカちゃん、やっぱり戻ってこないな……)
妻に恥ずべきことがあるのが分かり、気に入らなくなった場合。

離縁状を書いて彼女に手渡し、家を去らせる。

彼女が別の人の妻となり、また独り身となった場合。(離縁もしくは死別)

最初の夫は彼女を再び妻として迎えることはできない。

やけに細かいわね。

そもそも、嫌になった女を改めて娶ることなんてあるのかしら。

実際、そういうことがあったんだろうね。

そしてそれは相続に関する問題を孕んでいたんだと思う。

やだやだ。

結婚についての話なのに、愛はどこに行ったのよ。

妻を持つ兄弟が死んだ場合、男はその女を妻として迎えなければならない。

もし彼がそれを拒めば、女は長老たちの前で彼に唾をかけねばならない。

唾をかけられてなお、己の信念を貫く。

かくあるべしね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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