2.士師オトニエル

文字数 1,235文字

ヨシュアの死後、イスラエルの民を率いたのはカレブであった。

彼はユダ族の長で、かつてヨシュアと共にカナン偵察に赴いた者である。

カレブは言った。

「キルヤト・セフェルを占領したものにわたしの娘アクサを与える」と。

アクサ?

その言葉は「不確実」という意味ではなくって?

彼女を巡る話も短いながら象徴的だね。

キルヤト・セフェルは士師オトニエルが占領した。

だからアクサは彼の妻になった。

その際に父のカレブは娘のアクサにお祝いを贈るんだ。

ネゲブという土地を与えようとする。

するとアクサはさらなる要求をした。

土地をくれるのならため池もくれ、と。

土地だけやのうて池もよこせてか。

なかなかやるやないか。

実際のところ、土地だけもらっても困るのさ。

水が無ければ作物を育てられないからね。

カレブは上のため池と下のため池を娘に与えた。
おとんも娘にちゃんと池を与えたんやな。

ええ話やん。

そういうわけで、この場面は娘のためを思う父の愛情を描いている……

と言う風によく語られる。

でも、僕としては自ら考えて要求すべきを要求したアクサこそ褒めたいと思う。

土地に水が必要であることを知らなければ、ため池が欲しいとも思わなかったはずだ。

言われてみると確かにせやな。

なんも知らん箱入り娘やったら、土地もろて嬉しいで終わりそうやん。

ここからは勝手な解釈だけれど、だから「不確実」という言葉が重く響くんだ。

経済学では「不確実」に近い言葉として「リスク」が使われる。

ここで言う「リスク」とは、不毛な土地を手に入れてしまうということになる。

それは不良債権を掴まされてしまうようなもの。

だから少しでも優良債権になるよう「ヘッジ」をかけなければいけない。

その「ヘッジ」がため池なんだよ。

つまり、リスクヘッジということね。
イスラエルの民がバアルとアシェラに仕えた。

そのため神様は怒り、彼らをクシャン・リシュアタイムの手に渡した。

イスラエルの民はクシャン・リシュアタイムに8年間仕えた。

草!

崇めなさい。

なんやかや言うて嬉しそうやな。
悪魔の名前はサタンの方が有名なのに。

なかなか出てこないんだよね……。

サタニャエルくんは悔しそうやな。
僕はサタニャエルだよ?

まあ、色々混ざってて、自分でも自分がよく分からないんだけどさ。

ややこいことはさて置き。

イスラエルの民はまた圧制に敷かれたってことやな。

せっかくエジプトから逃げて来たっちゅうのに。

『ヨシュア記』の快進撃が嘘みたいだよね。

ようやく約束の地を征服したと思ったら、また支配される側に逆戻り。

イスラエルの民はたびたび苦境に立たされる。

そこで颯爽と登場するのが士師、すなわちショフェートたちなのさ。

イスラエルの子らが叫びをあげると、神様は一人の解放者を起こした。

士師オトニエルである。

彼はクシャン・リシュアタイムを倒し、40年の平和を保った。

また随分とあっさりした活躍ですこと。
そ、そうだね。

次回の士師エフドはもうちょっと丁寧に活躍が描写されてるから。

そうなの?

では楽しみにさせていただくわ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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