17.ザアカイ

エピソード文字数 1,397文字

イエスはエリコに入り、町の中を通っておられた。

そこに、ザアカイという名の男がいた。

彼は徴税人の頭で、金持ちであった。

徴税人の頭ですか。

福音書における徴税人はローマの手先にして、利を貪る悪党。

ザアカイもまた罪深い男というわけですわね。

エリコと言えば『ヨシュア記』でヨシュアに滅ぼされた町の印象が強いかな。

時を経た当時、エリコの町はバルサムの輸出で富が集まっていた。

バルサムは香油の原料となる含油樹脂のことだよ。

そんな発展した町で荒稼ぎした罪深い男というわけだ。

けれど徴税人であったマタイと同じく、ザアカイに罪を見せる場面は無い。

ザアカイという名前自体、ヘブライ語で「純粋」とか「無垢」という意味になる。

彼はイエスがどんな人物か見ようとして現れた。

そら、イエス様が来たら誰かて見に行きたくなるやろ。

うちかて見たい。

しかしザアカイは背が低かったため、大勢の人に阻まれてイエスを見られなかった。

そこでいちじく桑の木に登った。

イエスはそこを通りかかると、見上げて仰せになった、

「ザアカイ、急いで下りて来なさい。今日、わたしはあなたの家に泊まるつもりだ」。

そんな急に言われましても。
たぶん、事前に根回ししとったんちゃうかな。
事の真相はさて置き、これに周囲は驚いた。

いつものパターンだけれど、ザアカイは罪深い男だからね。

そんな男のところに泊まりに行くなんて、と周囲はざわつくのさ。

しかしザアカイはその罪を一気に帳消しにする。

なんと持っている財産の半分を貧しい人々に施すと言うんだ。

あら、太っ腹ですこと。

今で言うビル・ゲイツやウォーレン・バフェットと言ったところかしら。

さらに、もし自分が誰かからだまし取った分があれば、四倍にして返すと言う。

見上げた態度にイエスも満足しただろう。

「今日、この家に救いが訪れた」と言ってザアカイを称賛した。

文句なしの善行やからな。

ザアカイが「これだけ寄付したら天の国へ行ける」とか胸張ったらあかんけど。

自己主張強い奴は低くされるんがセオリーやで。

ザアカイは後に伝道者となり、カイサリアの主教になったとされる。

カイサリアはエルサレムが破壊後、初期キリスト教の中心地になる。

ザアカイ自身の描写は少ないけれど、とても重要な人物だと分かるね。

ザアカイについては後にちょっとした設定が付いてくる。

フランスにロカマドゥール(Rocamadour)という地域がある。

その名の由来は『聖アマドゥールの岩』(la roque de Saint Amadour)

その聖アマドゥールこそザアカイだという伝説が存在するんだ。

ザアカイさん、フランスにまで足延ばしとったんか。

大変やな。

しかしこの聖アマドゥールという人物が実在したという確証は無い。

さらに実在していたとしてもザアカイの時代より300年近く後だ。

ぶっちゃけると全くの別人だね。

小谷部全一郎『成吉思汗ハ源義經也』

源義経とチンギス・カンを同一視するような話ですわね。

源義経は他にアイヌ神話のオキクルミとも言われたりしましたわね。

人気者は何かしら、そういった伝説が生まれるものなのでしょう。

ロカマドゥールにはかの有名な剣、デュランダルがあるとも言う。

デュランダルは英雄ローランが持ったとされる聖剣のことだ。

はえー。

ロカマドゥールってロマン溢れるとこなんやなあ。

いっぺん行ってみたいわ。

え……、これ?
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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