24.アンティオコス7世シデテス

文字数 1,007文字

デメトリオス2世ニカトルはメディアに援軍を求めた。

しかしペルシアとメディアの王アルサケスはニカトルを捕虜にした。

捕まってもうた。
軍を解体してトリュフォンに追われ。

追われた先では異国の王に捕らわれ。

この王、弱すぎるのではありませんこと?

アレクサンドロス1世バラスから王位を簒奪した。

けれどそれをなしたのは、エジプト王プトレマイオス6世のおかげだ。

もともと、戦に疎い人間だったのかもしれないね。

デメトリオス2世ニカトルの後を継いだのが彼の弟。

アンティオコス7世シデテスだった。

デメトリオス王の子アンティオコスはシモン・タシに手紙を送った。

トリュフォンを討伐するにあたり、同盟関係を確認するためにね。

ん?

デメトリオスの子?

サタニャエルくん、弟や言うてへんかったか?

実はここを、あえて聖書の表現に従っておいた。

ミカちゃんが気付いてくれて嬉しいよ。

性悪猫。
難しい話じゃない。

聖書の言うデメトリオスは先代のデメトリオス1世ソテルのことさ。

その息子、デメトリオス2世ニカトルの弟、というわけだ。

不親切設計やな。

途中で誰か書き直してくれてもええやんか。

いやダメだからね。

絶対。

アンティオコス7世シデテスは先祖の地に入った。

ディオドトス・トリュフォンのもとには僅かな兵しか残らなかった。

トリュフォンは逃亡した。

勝利やな。

敵将を逃してもうたんは痛いけど、軍も味方につけてひっくり返ることはなさそうやで。

そうだね。

これでようやくセレウコス朝シリアは一人の王によって統治されることになった。

そしてトリュフォンという敵がいなくなった今、エルサレムを放置することもない。
当然ですわ。
シデテスは友人のアテノビオスをシモンのもとに派遣した。

ヤッファ、ゲゼル、エルサレムという町を返すこと。

すでに取り立てた税を返還することを求めた。

これは要するに、戦争ふっかけとるっちゅうことやな?

そう取られても仕方ないだろうね。

シモンは要求をつっぱねた。

そしてシデテスはケンデバイオスという名を将軍をユダヤに送り込んだ。

シデテス自身はより重要なトリュフォン追撃に赴いている。

トリュフォンは最後、シデテスにより処刑された。

紀元前1世紀の地理学者ストラボンによると、自殺に追いやられたともされる。

(STRABO GEOGRAPHY p327 Book XIV, Chapter 5)

地理学者さん、そないなことまで……。
学問がそれほど分岐していない時代ゆえ、ですわね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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