5.呪いの詳細

エピソード文字数 1,418文字

神様は言った。

「わたしは、あなたたちの前に祝福と呪いを置く」

神は相変わらず飴と鞭がお好きなようね。

そして草どももよく飼いならされた羊のよう。

それにしても、そもそも「呪い」って何かしら。

悪魔であるわたくしを差し置いて。

気になるよね。

大丈夫。

聖書はちゃんと詳しく説明してくれている。

「祝福」をはるかに上回る文章量でね。
あなたが神様に不従順であれば、これらすべての呪いがあなたに臨み、実現するだろう。

あなたはどこにいても呪われ、籠もこね鉢も呪われる。

お腹の中の子、土地の実り、家畜、すべて呪われる。

あなたはすみやかに滅ぼされ、消え去るだろう。

まず呪いが自分一人の問題ではないと言われる。

子どもだろうが何だろうが容赦しない。

疫病をあなたにまといつかせ、あなたを滅ぼされる。

肺病、熱病、高熱病、悪性熱病、旱魃、黒穂病、赤錆病をもってあなたを打つ。

天は赤銅となり、大地は鉄となる。

あなたの土地の雨を埃とし、砂を降らせる。

やるならとことん、徹底的に!

身体と土地に病をもたらすのね。

黒穂病(くろほびょう)は麦の実が黒くなってダメになる病気。

赤錆病(あかさびびょう)は麦の葉が赤く錆びたようになってダメになる病気だね。

あなたを敵によって打ち破らせる。

あなたの屍は鳥と獣の餌食となり、追い払う者はいない。

ただの死体でしょう?

気にせず食われれば良いでしょうに。

ユダヤではまず遺体を墓に一年ほど安置して骨になるのを待つ。

その後、オシュアリという器に「再埋葬」する。

これは復活の思想があるからで、死体の骨をばらばらにされてしまったら困るんだよ。

エジプトの腫れ物、痔、潰瘍、疥癬をもってあなたを打つ。

狂気、盲目、精神の錯乱をもってあなたを打つ。

疥癬(かいせん)って聞いたことないわね。
ダニに寄生されて起こる病気さ。

0.4mmの小さなダニが皮膚で繁殖して、赤くはれて痒みを起こす。

あなたは何を行っても成功せず、虐げられ、略奪される。
それ以前の呪いでとっくに死んでる気がするけどね。
ボロボロになってなお神への不服従を貫く。

天晴れな態度ね。

婚約しても、ほかの男が彼女と寝る。

家を建てても住むことはできない。

不倫されるのは呪われているからだったのかな。
死に値する罪ですもの。

当然ですわ。

土地の実りも、労働の実りも、ことごとく奪われる。
そもそも呪いのせいで、実りなど得られないのではなくって?
たぶん、実りを得た後に呪われた場合を想定しているんだよ。
あなたは自分が目にしているあまりのことに気がふれてしまう。
これも重複ね。

目にする前に精神は錯乱させられていたじゃない。

大事なことなのさ。
あなたは知らない国に行かされ、そこで木や石でできた神々に仕える。

あなたはそこで物笑いの種、あざけりの的となる。

害虫があなたの木や大地の実りをことごとく奪う。
仲間はずれが怖ければ、大人しく神を信じることね。
あざけりなど、なにするもの。

わたくしはビヨンデッタ。

この世の悪を統べる者よ。

これらの呪いは子孫にも及ぶ。

この律法の書に記されていない病気や災害をあなたに臨ませる。

朝には「夕べであればよいのに」とつぶやく。

夕べには「朝であればよいのに」とつぶやく。

エジプトに連れ戻されたとして、奴隷にすらなれないだろう。

無いものねだりの心は呪われているも同然ね。

そのような軟弱者、確かに奴隷としても雇いたくないわ。

こんな風に、聖書には呪いの詳細が書かれている。
そうびが外せなくなるだけじゃないってことさ。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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