4.ユダヤ人撲滅の勅令

エピソード文字数 1,090文字

自分にひざまずかないモルデカイに対し、ハマンの怒りは頂点に達した。

彼はクセルクセス王に対し、ユダヤ人を撲滅すべきだと主張したんだ。

ユダヤ人は自分たちの律法を大事にし、ペルシアの法に従わない。

そんな連中を野放しにしておくことは、国のために良くないと言ってね。

その理屈は分からんでもないなあ。

大阪民国みたいなもんやろ?

吉本政権立てて独立するしかあらへん。

お姉さまが何を仰っているのか、さっぱりですわ。
ミカちゃんのボケなのか何なのかはさて置き。

ハマンは王の指輪を借りて勅令を出した。

アダルの月の13日を期して。

老若男女の区別無くユダヤ民族を滅ぼせ。

彼らの持ち物を奪い取れ。

えげつない勅令やな。

たった一人、自分に頭を下げへんかっただけで、ここまでするか?

単にモルデカイが気に入らない以上の感情があったのかもしれないね。

この話はよく「反ユダヤ主義」の文脈で語られるのさ。

反ユダヤ主義?
ユダヤ人及び彼らの宗教に対する敵意のことだね。

古くから存在し、今なお世界中に見られるものだよ。

その感情はとても根強い。

例えばキリスト教の宗教改革で有名なマルティン・ルター。

彼は『ユダヤ人と彼らの嘘について』という本まで書いた。

そこでユダヤ教徒は「嘘つき」で「偶像崇拝者」だと罵っている。

よほど腹に据えかねることでもあったのかしらね。

世間一般のイメージとは随分かけ離れていますこと。

もちろん現在のルター派、ルーテル教会は反ユダヤ主義ではない。

そうした過去とも向き合っていこうとしている。

事実としてそのような書物が出され、読まれてきたということさ。

これは何かしら。
これはヴァチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂の天井画だよ。

ルネサンス期の彫刻家、ミケランジェロ・ブオナローティの作品だ。

ネタバレになって恐縮だけどね。

中央で磔(はりつけ)にされているのはハマンだよ。

磔か……。

なんかどっかで見たような気が。

それもそのはず。

ここでのハマンはイエス・キリストに類似している。

(『Esther Through the Centuries』 Jo Carruthers著を参照)

なん……やて……。

ユダヤ人撲滅しようとしとる悪人をか?

ミケランジェロがハマンをそのままの悪人とは解さなかったということだね。

言い換えれば、これはミケランジェロの反ユダヤ主義を表してもいる。

ユダヤ人を撲滅しようとしたハマンを救世主と重ねる。

なんともややこしい話ですわね。

そういう反ユダヤ主義的な考えが、『エステル記』の頃からあったんやろか。
そんな感じはするね。

何にせよ、このままではユダヤ人は根絶やしにされてしまう。

その危機を救うのがエステルなのさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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