23.異国の女

文字数 1,059文字

イエスはそこを去って、ティルスとシドンの地方に退かれた。

するとそこへ、その地方生まれのカナン人の女が現れて、叫んだ、

「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。

娘が悪霊に憑かれて、ひどく苦しめられています」。

イエスはファリサイ派や律法学者を非難し、

彼らを「盲人を導く盲人」だと言った。

分かってない奴に導かれれば、当然失敗するだろうとね。

そうした後にイエスとその一行はティルス、シドンへと退いた。

そこに行くのはイエス一行を憎く思うユダヤ人たちから逃れるためだろうね。

そしてそこで何やら助けてと叫ぶ女はカナン人。

つまり、異国人ということかしら。

そうなるね。

ちなみに『マルコによる福音書』ではスロフェニキア人と呼ばれる。

「シリア人」と「フェニキア人」を結合させた表現だ。

フェニキア初期の住民がカナンの子孫であるためだそうだよ。

エクソシスム(ギリシア語「厳命によって追い出す」の意)はイエス様の十八番やで。

さくっと癒やしてくれるんやろ?

ところがそうはならない。

イエスは沈黙でもって返すんだ。

しかし、イエスは一言もお答えにならなかった。

弟子たちがイエスに近寄って来て願った、

「この女を追い返してください。後ろで叫び続けています」。

あら、冷たいのね。

イエスも異国の女はお気に召さなかったかしら。

弟子らも「追い返して」とか、優しさが足りてへんで。

キリスト教は異民族も救うはずやのに。

イエスは何でもかんでも救うわけじゃない。

ここで彼は、カナン人の女を試したんだよ。

試した?
そう。

イエスはこの女の信仰を試したんだ。

イエスは女に「子犬ではなく子供にパンを食べさせよ」と言った。

すると女は「子犬は食卓から零れ落ちたパンくずを食べる」と言う。

これは比喩表現だ。

ユダヤ人は異民族のことを侮蔑的に「犬」と呼ぶ。

しかしイエスは「子犬」と呼ぶことで、侮蔑的ではない異民族の表現とした。

つまり、イエスは女に異民族としての信仰を問いただしている。

つまり異民族たる女は、ユダヤ人のお零れに授かると。

なんとも卑屈な話ではありませんこと?

そういう意味ちゃうと思うで。

ここは女の人の謙虚さが現れとるとこや。

なるほど、その通りですわね。
変わり身が早い……。
この問答を受けてイエスは女の信仰心を理解した。

そして女の娘も癒される。

これは以前、ローマのケントゥリオ(百人隊長)を癒やしたのと同様。

イエス自身が赴くことなく、言葉だけで癒されている。

その時、イエスは仰せになった、

「婦人よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの望みどおりになるように」。

娘はただちに癒やされた。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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