13.シリア軍の将ニカノルとユダの友好

文字数 1,124文字

ニカノルは宰相リシアスに従っていた将軍の一人だ。

アンティオコス4世エピファネスの時代にもイスラエルと戦っている。

その時にニカノルは敗北し、神の力を宣言するまでに屈した。

そのような人物だから、特にイスラエルを敵視した。

バキデスとアルキモスが戻った後、王はニカノルに出撃を命じた。

積年の恨みを晴らす戦いやな。

嫌いやないで、そういう雪辱の思いみたいなん。

デメトリオス1世ソテルは象部隊指揮官ニカノルをユダヤ総督に任じた。

ニカノルはイスラエルに攻め入り、ユダ・マカバイの兄シモン・タシが戦った。

敵に不意を突かれたシモン・タシが退却したが、ニカノルはそれを追わなかった。

ユダヤ人たちの勇猛さを知り、講和を結ぶべきと判断したためである。

ん?

王様の命令無視して勝手に講和とか結んでええんか?

実はこの記述は『マカバイ記2』による。

『マカバイ記1』ではニカノルは講和を餌にユダを討とうと画策するんだ。

ユダはそれを見抜いてニカノルとは会わないようにした。

しかし『マカバイ記2』では講和は実際に行われた。

ユダは相手を警戒しつつも、穏やかに協議が進んだと言う。

戦いにより、互いの実力を認め合った。

まるで少年漫画のような筋書きですが、嫌いではありませんわ。

ニカノルはエルサレムに留まり、ユダと親しくなった。

さらにニカノルはユダに結婚して子供を持つように勧めた。

ユダは結婚し、平穏無事に暮らし、普通の生活を楽しんだ。

戦いの後に生まれる友情か……。

めっちゃええやないか。

しかし平和は長続きしない。

それを破壊するのもまた大祭司アルキモスだ。

彼はニカノルがユダを後継者として、国策に反していると告げた。

王は怒り、ユダ・マカバイを首都アンティオキアに送るようニカノルに指示した。

実際、命令違反であれば仕方ない結末のような気もしますが。

ともあれ、ニカノルは王の命令に逆らうことなどできますまい。

短く儚い友誼でしたわね。

ニカノルは王の命令を実行する機会を窺った。

しかしユダ・マカバイはニカノルの態度が冷たいのに気付いた。

これは良くない徴候であると感づき、ユダは身を隠した。

これはうちが勝手にそう思うってだけなんやけど。

なんとなく、ニカノルは暗に企みをユダに伝えたんちゃうかな。

本気でやるなら機会を窺うこともあらへん。

さっさと部下に命じて終いや。

せやのにニカノルはわざわざ顔出して冷たい態度を示した。

こら何かあるでって思わせるために。

そういうことはあったかもしれないね。

もちろん聖書にそんなことは書いていない。

むしろニカノルはこれから悪人として描かれる。

ただ、物語として読むなら、そういう心の動きを想像しても良いと思う。

彼らの友情をほんの一時のもの、単なる偽りだと切り捨ててしまわないよう。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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