28.イエスと金持ちの青年

エピソード文字数 1,107文字

一人の人がイエスに近寄って、

「先生、永遠の命を得るためには、どんな善いことをすればよいのでしょうか」

と言った。

この質問にイエスは掟を守るように言った。

掟とは「殺すな」「姦淫するな」「盗むな」「騙すな」

そして「父母を敬え」「隣人を愛せ」ということだ。

敬えぬ父母を持つ子もおりましょうに。

隣人に日々苦しめられる者の身になってみては?

まあ、端的な表現で全てをカバーすることは出来ないさ。

ともあれイエスの回答を受けた青年は「それらを守っている」と言った。

そして「まだ何か欠けているか」と尋ねた。

イエスは仰せになった、

「もし完全になりたいのなら、帰って、あなたの持ち物を売り、貧しい人々に施しなさい。

そうすれば、天に宝を蓄えることになる。それから、わたしに従いなさい」。

持ち物全部売らなあかんのか?

それはきついなあ。

確かにきつい。

そしてこの青年は多くの財産を持っていた。

それゆえに深く悲しみながら立ち去ったと言う。

そこでイエスは弟子たちに仰せになった、

「金持ちが神の国に入るよりは、らくだが針の穴を通る方が易しい」。

ほとんど……

いや、完全に不可能やないか。

それくらい困難なことに対し、誰が「出来る」と安易に言えるだろう。

その点、深い悲しみを表して立ち去った青年はとても誠実だったと言える。

と言うのは、ディートリヒ・ボンヘッファー。

ヒトラー暗殺計画に加担したかどで逮捕され、刑死となったキリスト教神学者だよ。

彼は正直さゆえにイエスから去って行った。

それは不服従による見かけ上の信仰よりもずっと約束されたものとなるだろう。

(『The Cost of Discipleship(弟子期間の負担)』参照)

同著でボンヘッファーは物の所有は問題ではないと語る。

イエスが「持ち物を売り」なさいと言ったのは言葉そのままではない。

これは物に執着してはいけないという意図なんだ。

つまり、彼には執着が捨てきれへんかったと?

それを偽ることなく明かしてイエスの元を去ったんやな。

すると、ペトロが口を挟んで、イエスに言った、

「わたしたちは一切を捨てて、あなたに従ってきました。

いったい、何を頂けるのでしょうか」。

ペトロ……。
彼はなかなかのムードメーカーではありませんこと?

あまりの困難に茫然とする弟子たちの中、

その重い空気を振り払って前向きな発言をする。

滑稽に描かれてはおりますが、なかなかしたたかに思えますわ。

言われてみると確かにそうやな。

小難しい話を延々聞くよりかは、ちょっと笑える方が親しみやすいし。

イエスは彼らに仰せになった、

「わたしの名のために、家、兄弟、姉妹、父、母、子、畑を捨てた者はみな、

そのいく倍もの報いを受け、永遠の命を受け継ぐ」。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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