2.全イスラエルの王ダビデ

エピソード文字数 1,163文字

アブネルはダビデと協定を結び、立ち去った。

しかし弟アサエルを殺されたことをヨアブは許せなかった。

彼はアブネルの腹を突き刺して殺した。

戦場での死は誉れや。

その血を血であがなうのは単なる私情やで。

ヨアブは優れた軍人のはずやけどな。

大事な弟のことに関しては冷静でおれんかったか。

このことを知ったダビデは、アブネルに対して哀悼の意を送る。

そしてヨアブに呪いの言葉をかけた。

サウルの子イシュ・ボシェトはアブネルの死を知って落胆した。

レカブとバアナの兄弟はイシュ・ボシェトの寝込みを襲い、彼の首をはねた。

あら、裏切り?

いよいよ国が追い詰められたというわけですのね。

大将の首を持って行けば恩賞にあずかれるとでも思ったのでしょう。
まあ、その通りだろうね。

彼ら兄弟はイシュ・ボシェトの首を持ってダビデのところに来た。

しかしダビデは彼らを殺してしまうんだ。

「悪人が正しい人を寝床で殺した」ならば、それを討たねばならないと言ってね。

ご褒美もらえると思ったら、逆に殺されてもうたんか。

あてが外れるにも、ほどがあるわ。

しかし、なんやかやでダビデが王になるのに邪魔な連中が死んでいったな。

サウルは戦争で死んで、息子のイシュ・ボシェトは暗殺された。

どっちも、ダビデ自身は手を下してへん。
ダビデには後ろめたいことなんか何もない。

想像だけれど、彼が王になるための正統性が示されているんだろう。

正統性?
政治権力の確立、権威を正当化する概念のことだよ。

仮にダビデ自身がサウルやイシュ・ボシェトを殺していたとしたら?

それは王位の簒奪だ。

だけど彼らはダビデの与り知らぬところで勝手に死んだ。

そしてダビデ自身はサムエルに油を注がれ、ユダの王でもある。

今この瞬間、全イスラエルを支配するに相応しいのはダビデを置いて他にいない。

そういう筋書きがなされているのさ。

イスラエルの長老は全員、ヘブロンにいるダビデのところに来た。

そして長老たちはダビデに油を注ぎ、彼をイスラエルの王とした。

ダビデ、30歳の時のことである。

ああ……。

あの美少年が、ひげもじゃのおっさんになってもうた。

誰だって子供のままではいられないからね。

これは16世紀後半から17世紀のフランス人彫刻家、ニコラス・コルディエの作品。

ローマのカトリック教会、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂に飾られているよ。

右手に持っているのは王笏(おうしゃく)で、権威の象徴。

その下にはダビデを表す竪琴が飾られているね。

彼は竪琴の名手だった。

ちゅうことは、右足に隠れてるんは、ゴリアテの首やな?
そこまでは分かりますけれど。

左手で指差しているガキは何なのかしら。

にやついて、いやらしい顔ですこと。

この子供はダビデの子孫を表している。

カトリックの大聖堂でダビデの子孫と言えば、かの救世主を置いて他にいない。

ジーザス・クライスト……。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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