6.ナザレのイエス

エピソード文字数 1,408文字

夢の中で主の使いがヨセフに現れて言った、

「起きよ。幼子とその母を連れて、エジプトへ逃げよ。

ヘロデが幼子を探し出して、殺そうとしている」。

赤ん坊を殺すやて?

王様がそんなんでええんか。

ヘロデは三博士たちから新たな王の誕生を告げられた。

それで自らの地位が脅かされると考え、いわゆる「幼児虐殺」を行った。

なんて風に『マタイによる福音書』では語っているね。

ちなみにこの幼児たちはイエスのための最初の殉教者とみなされる。

王権が脅かされるも何も。

その王の地位を保つための民を虐殺するなど。

本末転倒もはなはだしいでしょう。

それ故これはマタイによるフィクションだと考えられている。

聖書以外の歴史書どころか、他の福音書にすらない話だしね。

まるで他はノン・フィクションであるかのような言い方ですこと。
歴史上のヘロデ王は気性は荒くも優れた人物だったと思う。

彼の功績で最も有名なのがエルサレム神殿の大改築だ。

「ヘロデの神殿を見ずして美しい建物を見たとは言えない」とまで言わしめた。

青、白、濃い緑の大理石をふんだんに使ったものだったらしい。

(Talumd "Bava Batra" 4a 参照)

ほんなら虐殺された幼児はおらんかってんな?

良かった良かった。

聖書ではベツレヘムで虐殺したと書いてある。

けれど当時、ベツレヘムは人口数百人程度の寒村だ。

大勢の幼児がいたとしても20人くらいじゃないかな。

その程度の数を殺したところで、歴史家の目に留まらなかった可能性はある。

それにしてもマタイの言葉を信用する根拠も無い。

しかしこの物語は消えはしません。

何故なら、人々はヘロデ王に残虐な人物であってほしいから。

真相は藪の中やで。

せやけど、なんでエジプトに逃げてるんや?

なんかあったらエジプトに逃げる決まりでもあるんかいな。

イエスがエジプトからやって来る、ということに意味がある。

それは『ホセア書』に書いてあることと符合するんだ。

『ホセア書』第11章1節

イスラエルが幼子のころ、わたしは彼を愛した。

わたしはわたしの子をエジプトから呼び出した。

なれど、この箇所は『出エジプト記』を意図しているのでは?

エジプトから呼び出されたのはモーセであり、彼の率いるイスラエル人。

しかし『マタイによる福音書』はそこを繋ぎ合わせる。

預言者ホセアの言葉は、まさにイエスのことを言ったのだとね。

ヘロデ王は死んだが、息子のアルケラオがユダヤを治めた。

ヨセフは夢のお告げにより、ガラリヤ地方へと逃れた。

そしてナザレという町に行って住んだ。

預言者が「彼はナザレ人と呼ばれる」と言われたことが成就するためである。

確かに「ナザレのイエス」とは聞きます。

しかし、それを預言した者がいたかしら?

実は明確な答えは無い。

『イザヤ書』のある一節をもじったんじゃないかとの説がある。

『イザヤ書』第11章1節

エッサイの切り株から、一つの芽が萌え出で、

その根から、一つの若枝が出て実を結ぶ。

ここの若枝はヘブライ語でネセル。

それをギリシア語読みするとナザレネ。

つまりイエスを『イザヤ書』における救世主と結び付けたという説だ。

(Isaiah's Use of the word "Branch" or Nazarene By Fred P Miller 参照)

それがほんまやったら、ようそんなん思いつくわ。

めっちゃ短い文章に、めっちゃ沢山意味付けされとるやん。

マタイがそれほど聖書に通じていたとも言えますわね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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