1.旅を振り返って

エピソード文字数 1,050文字

あれ。

ミカちゃん、またどっか行っちゃったな。

と言うことはひょっとして……。
あら。また会ったわね、サタニャエル。
ビヨンデッタ。

ミカエルには会えたのかい?

それがどこにも見当たらないのよね。

お姉さまったら、いったいどこに行かれてしまったのかしら。

ところでサタニャエルはずっと何をしているの?

あの草どもを眺めて何か楽しい?

そうだね。

なかなか興味深いもんだよ、人間って。

そうなの?

そこの爺さんなんか、今にも死にそうだけど。

そんなののどこが興味深いのかしら。

今この瞬間だけで彼らを見ても仕方ないさ。

流れの中でもがき苦しむ様こそ見所だよ。

あらそう?

なら、サタニャエルの言葉に従って、少し付き合ってあげましょう。

……。
(ま、いいか。)
モーセは神様に命じられたことを全てイスラエルの子らに告げた。

アモリ人の山地、近隣の土地すなわちアラバ、シェフラ、ネゲブ、海辺……

カナン人の地、レバノン山、そしてユーフラテス川まで。

これはアブラハム、イサク、ヤコブとその子孫らに与える土地であると。

何よ。この草ども、神に祝福されているの?

それでいてこんなぼろぼろなんだから、救いようもないわね。

救われるまでは誰だってぼろぼろさ。
まずばらばらだったイスラエルの民をまとめるため、組織作りに着手した。

裁き手、つまり各単位における責任者を任命したのだ。

そして敵を知るため、ヨシュアを含む偵察者を派遣した。

草がどれほど集まろうとも、何をしようとも、所詮は草。
このビヨンデッタ様に勝てるとお思い?
別に彼らもビヨンデッタと戦いたいとは思わないだろうね。

(敵だとは見なしているだろうけど)

イスラエルの民は神様を疑い、不平を言った。

それゆえに罰が下された。

アモリ人との戦における敗北がそれである。

罰って何よ。

ただの戦争でしょ?

弱いから負けた。

それだけのことでしょう!

勝つのは神様のおかげ、負けるのは神様に逆らった自分たちのせい。

まあ、ある意味で潔いかな。

私たちは紅海の道を通り、荒れ野に来た。

荒れ野には様々な部族が暮らしており、争いを避けて進んだ。

神様は言った。

「アモリ人シホンとその土地をあなたの手に渡した」

「占領し始めよ。彼に戦いを挑め」

侵略! 侵略!
いい不謹慎っぷりだね。
だって悪魔なのよ?

当たり前でしょう。

イスラエルの民はシホンの民を滅ぼし尽くした。

家畜と略奪品は戦利品とした。

また、バシャンにあるオグの王国でも同じようにした。

この草ども、意外にやるわね。

見直したわ。

これはダイジェストだからね。

本当はもっと長い道のりで、苦難の連続だったよ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色