23.パウロの逮捕

文字数 1,367文字

異邦人の信者については割礼を施さずとも良いとした。

けれど、それはキリスト教徒が勝手に言っていることだ。

多くの敬虔なユダヤ教徒は、それが律法に反することだと確信している。

だからパウロの説教は許せないものだったろう。

そんななのに、パウロはエルサレムへと上って行った。

アジアから来たユダヤ人たちは神殿の境内でパウロを見かけて叫んだ、

「イスラエルの方々、手を貸してくれ。

この男は、至る所で、民と律法とこの場所に反することを、みなに教えている。

そのうえ、ギリシア人を神殿に連れて入り、この聖なる場所を汚してしまったのだ」。

彼らは以前、エフェソ人トロフィモが町でパウロとともにいたのを見かけていた。

そのため、パウロがトロフィモを連れて神殿に入ったと思っていた。

先だってのエルサレム会議など、ユダヤ全体にはさしたる影響もなし。

イエスを崇めるユダヤ教の異端が勝手なことを申しているに過ぎません。

割礼を施さなくても良いなど、その最たるものかしら。

せやけど、神殿の件は完全に濡れ衣やないか。

パウロはギリシア人を神殿に連れていくとか、そんなことしとらへん。

これはちょっとした情報操作ってやつだね。

本人の思い込みもあるだろうけれど、先に律法違反を咎めている。

そんな悪い奴なら、神殿を汚すことも十分あり得る……。

なんて風に人々は思ったかもしれない。

こういう人は、こういう人でもあるに違いない、みたいな発想やな。

パウロが異邦人は割礼せんでもええ言うたんは事実や。

その事実に引きずられて、ろくでもない印象が肥大化してもうたんか。

人は論理よりも情で動くものさ。

なんとなく善人と思えば称賛し、なんとなく悪人と思えば貶す。

その人の実態や言葉は二の次となる。

そしてパウロを殺しかねないほどの暴動が起き、守備隊の千人隊長が出張る始末だ。

千人隊長は名をクラウディウス・リシアと言う。

千人隊長の許可を得て、パウロは民衆に向けて弁明を行った。

自分がいかにして回心したのかについて話したんだ。

しかしそれを聞いた人々はむしろヒートアップして、死刑にすべきとまで言い始めた。

話は大きくなり、パウロは最高法院サンヘドリンの前に立つことになった。

パウロは議員の一部がサドカイ派であり、他の者がファリサイ派であると気づいた。

そこで会議場で声を高めて言った、

「兄弟のみなさん、わたしはファリサイ派の者です。

死者の復活という望みのために、わたしは裁判にかけられているのです」。

あら、お上手。

サドカイ派は草どもの復活そのものを認めない派閥。

復活を認めるファリサイ派との対立を煽ったのですわ。

パウロが語ったのはイエスの復活だ。

それ自体がファリサイ派に認められたわけじゃない。

けれどここでは、あくまで「復活」それ自体の許容と言う風に語った。

するとパウロの思惑通り、最高法院は分裂したんだ。

そしてファリサイ派の律法学者がパウロを擁護するに至ったのさ。

よっしゃ、パウロもこれで難を逃れそうやな。
ファリサイ派が擁護しても納得しないユダヤ人は大勢いた。

徒党を組んで、パウロを暗殺しようという動きまで現れたんだ。

そこで千人隊長はカイサリアの総督フェリクスへと引き渡した。

そしてフェリクスの後任、フェストゥスの時、パウロは領主アグリッパ王と会う。

ヘロデ・アグリッパの息子で、マルクス・ユリウス・アグリッパのことだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色