3.沈黙は金

エピソード文字数 985文字

聞いたうわさは、胸に納めておけ。

安心せよ。胸が張り裂けるものでもあるまい。

今の世は、TwitterやFacebookといった便利なもので溢れております。

そのような便利な時代に、口を閉ざすことは容易ではないのでしょう。

幾人が己の軽率な言葉に足をすくわれたことか。

まこと愉快でなりません。

ついうっかり漏らした言葉が身の破滅。

1000年、2000年経とうが変わらない人の性(さが)ってやつだ。

『シラ書』ではこんな風に、人の多弁を戒める。

「胸が張り裂けるものでもあるまい」なんて、なかなかうまい言い回しだね。

うちら、こうやってめっちゃお喋りしてるんやけど。

大丈夫なんやろか……。

ご安心くださいお姉さま。

わたくしどもの世界においては力こそ正義。

お姉さまの言動に文句のある者はビヨンデッタが滅してご覧にいれましょう。

ほんまか。

そら助かるわー。

いかんでしょ。
要するに「沈黙は金」ってのは、黙ってればええってことなんやな。
それは誤解だ。

当たり前だけれど、僕らは会話無しに社会を維持できない。

「沈黙は金」とは、語るべき時に語れという戒めなのさ。

沈黙を守って知恵ある者と見られる人もいれば、

しゃべりすぎて憎まれる者もいる。

答えられなくて黙っている者もいれば、

時を弁えて黙っている者もいる。

沈黙がそのまま知恵とはならないと語っていますわね。

まあ、当たり前と言えば当たり前、かしら。

知恵ある者は時が来るまで黙っている。

しかし、ほら吹きと愚か者は時を顧みない。

何の考えもなく、ただ黙っているしかないのと、

考えがあって黙っているのとでは雲泥の差がある。

沈黙を金とするのは、TPOを弁えた上での話なのさ。

TPO(Time, Place, Occasion)

時と場所、そして場合に応じた態度が大事やな。

舗道でつまずくのは、舌でつまずくよりはましである。

悪い者の没落も、このように速やかにやって来る。

愚か者の口から出ることわざは無視される。

彼は時を弁えて、これを口にしないのだから。

何が難しいかと言えば、一見して愚かか否か、見分けが付かぬことでしょう。

ある者から見て愚かであっても、別の者からは神のごとく敬われることがございます。

かくして草どもは自らの正当を立てるのに他者を愚かと罵りだす。

己を律して学問に励むよりも、その方が容易いとご存知なのです。

ビヨンデッタ、「沈黙は金」やで。
あら、ごめんあそばせ。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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