15.ある金持ちと貧乏人のラザロ

文字数 1,243文字

ある金持ちがいて、毎日、贅沢に楽しく暮らしていた。

この金持ちの門前に、ラザロという、体中にできもののある貧乏人が座っていた。

ラザロは金持ちの食卓から零れ落ちるものを求めていたのだ。

やがて、この貧しい男は死に、アブラハムのふところへと連れていかれた。

また、金持ちも死んで葬られた。

今回の話はたとえ話ではなく実話に基づくもの。

中世の教会ではそのように言われていたらしい。

実際にラザロという人物がいて、天に召されたのだとね。

ここは寓話やのうて歴史やっちゅうことか。

天に召されて、それでしまいなんかな。

いいや、これは物語の導入に過ぎない。

この後天の国と陰府(よみ)の国とが描かれている。

おやおや。

死後の世界を描きながら、それを実話と?

もちろん、皆が皆そう考えたわけではない。

19世紀の宣教師ブラウンロウ・ノースも歴史であることを支持しつつ、

これがイエスによるたとえ話である可能性も除外しないとした。

それはさて置き、話の続きはどないなっとるんや?
金持ちは陰府で苦しみながら見上げると、遥か彼方にアブラハムとラザロを見た。

金持ちは叫んで言った、

「父アブラハムよ、わたしを憐れんでください。

ラザロを遣わして、その指先を水に浸し、わたしの舌を冷やさせてください。

わたしはこの炎の中で悶え苦しんでいます」。

信仰薄く、地の財に執着した金持ちは陰府にて炎に焼かれる。

それに対して貧乏人のラザロは天の国でアブラハムとおしゃべりですか。

金持ちもかわいそうやな。

なんとか楽にしてやれんのやろか。

残念ながらこの金持ちは助からない。

アブラハムは天と陰府とにおおきな淵(ふち)があると言う。

この淵を越えて行き来することは出来ない。

すると金持ちは、ならば自分の兄弟にラザロを遣わしてほしいと言った。

自分と同じ苦しみを味わうことのないよう、きびしく言い聞かせてくれと。

しかしアブラハムは「モーセと預言者たちがいる」から問題無いと言った。

この金持ち自身、モーセや預言者を顧みなかったのでしょう?

その兄弟たちが悔い改めることも無さそうですわね。

であればこそ、皆が見知ったラザロを遣わしてほしいのでしょうが。

アブラハムは言った、

「もし、モーセや預言者たちに耳を傾けないなら、たとえ、

誰かが死者の中から生き返っても、彼らはその言うことを聞かないであろう」。

せやなあ……。

幽霊かゾンビか知らんけど、そんなん嘘言うてくるかもしれへんし。

ラザロが行ったからて、素直に話聞いてくれるとは考えにくいやろなあ。

かの有名なマルティン・ルターはこれをたとえ話だと解釈している。

その理屈は、人は審判の日を待って天国と地獄とに分けられるからだ。

その日がまだ訪れていないのに、炎で焼かれるのはおかしい。

だからルター曰く、この陰府は良心の呵責を表すものだと言う。

言われてみれば確かに。

審判を待たずに火あぶりでは、話が違いましてよ。

他にもこれはファリサイ派批判とか、サドカイ派批判のたとえ話だという説もある。

内容自体は単純明快だけれど、その読み方は様々だね。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色