18.「資産」運用

文字数 1,649文字

当時の貨幣価値についておさえておこう。

今まで何度も出て来た貨幣の名前としてはデナリウスがあったね。

それと同等の価値を持つ貨幣にドラクマがある。

ドラクマも銀貨で、1枚が1日の労働に値する価値を持つ。

でもそれだけやと細かい買い物とかしにくいな。

他にはどんな貨幣があるんやろ。

ドラクマより小さい価値の貨幣はオボルスだ。

オボルス銀貨6枚でドラクマ銀貨1枚の価値を持っている。

その辺りを整理すると以下のような感じになるよ。

6オボルス=1ドラクマ

100ドラクマ=1ムナ(ミナ)

60ムナ=1タラントン(タレント)

古代ギリシアでは70ドラクマが1ムナに相当した。

それが後にはドラクマの価値が上がって、100ムナとなったんだ。

1ドラクマが1万円程度と考えると、1ムナは100万円。

けっこうな大金ですわね。

その上のタラントンは6000万円になるやん。

家買えるで。

『マタイによる福音書』と『ルカによる福音書』

二つの福音書では、お金を預けてそれを元手に稼いでくるように言う話がある。

話の筋は似たようなものなんだけれど、金額が全然違うんだ。

『マタイによる福音書』

ある人が僕(しもべ)たちにお金を預ける。

ある者は5タラントン、ある者は2タラントン、ある者は1タラントン。


『ルカによる福音書』

王になる者が十人の僕たちにお金を預ける。

全員に1ムナを渡して、商売をするように告げる。

5タラントンて、3億円かいな。

豪邸が建ちそうやで。

東京では難しいかもしれないけどね。
しかし金額に随分と開きがありますわね。

どうしてこのようなことになったのかしら。

正直ちょっとよく分からない。

ただ、タラントンは後に「才能」を意味するタレントの語源だ。

だから『マタイによる福音書』では、しばしば「才能」の比喩として解説される。

そのたとえっちゅうのは、どんな話なんや?
お金を預かった僕たちが、それぞれどうするかという話さ。

5タラントン預かった者はさらに5タラントン増やした。

商売か何かがうまくいったんだろうね。

しかし1タラントン預かった者は何もせずに1タラントンだけ返した。

下手なことしてお金減らすかもしれへんしな。

慎重であることも一つの選択やで。

しかしこれに対して主人は怒る。

「怠け者の悪い僕」と言って非難する。

せめて銀行にでも預けていれば利子も付いたろうにと言ってね。

6000万円もの大金を無駄に寝かせておくのは罪深いことですわ。

わたくしに預けていただければ、10倍にしてお返しいたしますのに。

FXで。
先物取引でさえ江戸時代の米先物が世界初。

さすがにイエスの時代にFXみたいなデリバティブ取引は出来ないね。

ここでタラントン即ち才能の話に繋がる。

才能は個々人によって異なる。

しかしそれを育むのは人自身の努力だ。

そんで、何も努力せんと増やせへんかったから怒られたんか。

厳しいけど、生き残るには仕方あらへんわな。

『マタイによる福音書』第25章28-29節

さあ、この男からそのタラントンを取り上げて、十タラントンを持っている者に与えよ。

持っている者は与えられて、さらに豊かになり、

持っていない者は、持っている物までも取り上げられる。

無能に資産を預けておいても仕方ありません。

有能な者により多くを預けてこそ、より多くの成果を得られるというもの。

続いて『ルカによる福音書』の方だね。

こっちは皆が1ムナを預けられているけれど、人によって成果が異なる。

ある人は10ムナ、ある人は5ムナの利益を得たと言う。

そんな中、やはり何もせずに1ムナをそのまま返してくる者がいた。

金額がめっちゃ落ちてるけど、やっぱタラントンは多過ぎやと思ったんかな。

持ち運びするだけでも大変やろし。

『マタイ』と違ってまず与えられた機会は平等だ。

その上で各人の成果に応じて称賛を与える。

『ルカ』の方がより神の下の平等と、慈愛を感じられるんじゃないかな。

慈愛ね……。

『ルカ』でも結局、持てる者により多くを与える結末となっていますわ。

スティグラーの法則ではありませんが、世の不公平を描き出しているのでは?

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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