11.ヨセフの「ざまぁ」展開

文字数 1,269文字

サタニャエルくん。

「ざまぁ」ってなんや?

「様を見ろ(ざまぁみろ)」のことだね。

自分にいやな事をしてきた相手をこらしめて、スカッとする様子のことだよ。

なるほど。

ほんなら、ヨセフにとって復讐したい相手は……

痴漢冤罪ふっかけてきよったおばはんやな。
いや、そっちはたぶんもうどうでもいいんだと思うよ。

それよりももっと人生において大きな問題があったよね。

分かっとる、分かっとる、冗談やがな。

自分を売り払った兄弟たちやろ。

そうだね。その兄弟たちとヨセフが再会を果たすんだ。
豊作の七年間でヨセフは食料を蓄えた。

そして飢饉の七年間が始まり、世界中の人々が買い付けのためにエジプトを訪れた。

その中にはかつてヨセフを売った兄たちの姿もあった。

飢饉で食べ物が無くなったから、それを買いに来たってことか。

しかし兄弟たちもまさか、買いに行ったところの宰相が自分たちの弟とは思わんやろ。

ヨセフは彼らに気付くんだけれど、兄たちは気付かなかった。

そこでヨセフは彼らに言いがかりを付け始めるんだ。

お前ら、スパイやろ!
仕返しタイムのスタートやな。

ほな、続き見てみよか。

兄弟の一人シメオンを人質とし、ヨセフは彼らをカナンの地に帰した。

ヨセフは彼らに末の弟、ベニヤミンを連れて来いと告げた。

ベニヤミンはヨセフにとって実の弟である。

兄弟たちはカナンの地に帰り父ヤコブにそのことを伝えた。

父ヤコブは受け入れがたいと思ったが、兄弟の一人ルベンの説得により了承した。

父イスラエル(ヤコブのこと)は兄弟たちに、贈り物と相場の倍の銀を用意するよう伝えた。

兄弟たちが再びヨセフに会うと、ヨセフは父イスラエルの安否を聞いた。

そして弟のベニヤミンを見て感極まった。

奥の部屋に一度退いて涙を流した。

離れ離れになっても、父親や弟のことは大事に思っててんな。
ええ話やー。
同時に他の兄弟たちへの憎しみも消えてはいないようだね。

この後、皆で食事をするのだけれど、ベニヤミンの袋に銀の杯をこっそり入れるんだよ。

可愛い弟へのプレゼントやな。
残念だけどそうじゃない。

これはヨセフの罠だった。

後から盗みを問い詰めて、犯人を奴隷として引っ張るためのね。

大事な弟を手元に置いておくためか。

なかなかの策士やないか。

ベニヤミンが奴隷にされそうになり、ユダが訴えた。

「申し開きできないことだ。自分たちも奴隷にしてほしい」と。

しかしベニヤミンだけを手元に置きたいヨセフは不要だと突っぱねた。

ユダは父イスラエルの悲しみについて滔々と語り、自らが身代わりになると願った。

ヨセフは耐え切れず、ついに己が弟のヨセフであることを明かした。

ここで正体を明かすんやな。

ユダは例のオナンくんの父親やけど、子を失う苦しさを知って思うところもあったんやろ。

そういう本気の訴えだったから、ヨセフの心を動かしたのかもね。

この後ヨセフは兄弟たちとも和解して、エジプトで皆を養うことにしたんだ。

その中には父イスラエルも含まれているよ。

大団円か。

良かったなあ。

この時点ではまだ、ね。

でもこの大飢饉は次の『出エジプト記』に繋がる、大きな問題を孕んでいたんだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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