8.空

文字数 1,328文字

『コヘレト』最後の章、第12章は人の死に行く様を詩的に表現している。

老いて死ぬ前に若き日々を大いに喜ぶよう語り掛け、次のように続ける。

お前の青春の日々に、お前の造り主を心に刻め。

太陽と光、月と星が暗くなり、雨の後に雲が戻ってくる前に。

明かりが消えて暗くなる。

だんだんと、命が燃え尽きるようなイメージがあるな。

タルムードによれば太陽は額、光は鼻を表しているらしい。

ここから先の表現は何かしらの暗喩となっている。

では、月と星とは?
月は魂、星は頬、そして雲はまぶたを象徴している。

ここで魂について語るということは、そのありかは頭だと思われていたのかな。

なんやこれ。
フリー素材を並べてみた。

顔っぽく見えるかな?

点が3つあれば顔のように見えると言いますし。

その気になればいかようにも見えるのではなくって?

家を守る者は震え、屈強な男たちも身を屈め、

石臼をひく女たちは数が減って仕事をやめ、

窓から眺める女たちはその美しさを失ってしまう。

家を守る者はろっ骨と腰、屈強な男たちは強い足。

それらが折れ曲がってしまうと言うわけだね。

そして石臼をひく女たちは歯、窓から眺める女たちは目を意味している。

これは、フリー素材でこしらえませんの?
「石臼をひく女」のフリー素材があればね。
人が永遠の住まいに赴こうとしているので、

泣き人たちは通りを歩き回る。

泣き人?
葬儀の場で頼まれて泣く人のことだね。

日本だと「泣き女」として知られているけれど、男もいたらしい。

とは言え、だいたいは女がその役を担った。

これは古代エジプトの壁画で、紀元前1411年から紀元前1375年くらいのものだ。
2~3人ほど、反対向いとらへんか?
日本では廃れてしまった習慣だけどね。

中国大陸や朝鮮半島ではまだ見られるらしい。

塵は元の土に返り、

息吹は、これを授けられた神のもとに帰る。

息吹は心、精神とか霊を意味する。

死ねば土くれとなり、その霊は神のもとに召されるというわけだ。

そして最後、コヘレトはこう締めくくる。
神を畏れ、その掟を守れ。

これは、すべての人間のなすべきことである。

神は、すべての業(わざ)を、隠れたこともすべて、

それが善であれ、悪であれ、裁かれるからである。

草ごときがあくせくしたところで、いかほどのこともなし。

草どもは所詮、誰かに道を尋ねずにはおられますまい。

であればおとなしく神に従うのが無難と言うもの。

わたくしであればこう言いましょう。

「これがわたくしの道ですわ。あなたがたの道はいずこかしら?」

さては道などございません!

ツァラトゥストラかく語りき……。
人は死ぬ。

こればっかりは避けられへん。

そのどうしようもない運命と向き合って生きていかなあかん。

死ねば土くれや。

せめて地獄でもあった方がなんぼか楽しいやろうになあ。

そう。

この時点では天国も地獄もない。

ただ陰府(よみ)に下るだけの暗い道しかない。

死後どうなるかは今も昔も重要なテーマだ。

古代日本でも黄泉の国に行くけれど、そこは天国でも地獄でもない。

ただの死者の世界さ。

それが今や様々な宗教で死後の世界が語られていますわね。

極楽往生だの輪廻だの、天国、煉獄、そして地獄。

死後を見据えてお好きな信仰を抱けばよろしい。

コヘレトは言う、「空の空、一切は空」と。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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