3.バフォメット

文字数 1,104文字

ソロモンの子レハブアムの治世において、イスラエルは南北に分裂した。

『列王記』ではソロモンのせいという書き方だったね。

『歴代誌』ではレハブアムが圧政を敷いたためとただ書かれている。

『列王記』読んでてもそれは分かるけどな。

『歴代誌』やとそこにソロモンが全く絡んでへんってことやな。

王国の分裂後、イスラエルじゅうの祭司とレビ人はレハブアムのもとに来た。

北のイスラエル王国において主の祭司としての務めが果たせなかったからである。

イスラエル王ヤロブアムは、雄山羊の姿をした魔神に仕えた。

なんだかやけに新しいデザインの銅像ではなくって?

バフォメットであることは分かりますけれど。

この銅像がお披露目されたのは2018年のことだからね。

場所はアメリカのアーカンソー州会議事堂前だ。

州会議事堂前て……。

ええんか、こんなん。

アメリカ人はビーフがお好きなのでしょう?

ならば山羊ではなく牛を拝めばよろしいのに。

そういう問題ではないけどね。

当たり前っちゃ当たり前だけど、直前には抗議活動も行われている。

サタンに権利は無し!(Satan has NO rights!)

その通りですわね。

草どもが弱い自分たちを守るためにこしらえた「権利」など悪魔には不要ですわ。

この像を建てたのは悪魔神殿(The Satanic Temple)を名乗る組織だ。

彼らが掲げるのは「多様性」であって、必ずしも悪魔崇拝ではない。

彼らが嫌うのは特定宗教と政治の癒着さ。

宗教家たちの欺瞞を暴くことと、信仰の自由こそを大事としている。

だから信じる神があろうとなかろうと、参加するのは自由なんだ。

意外にちゃんと考えて活動しとるんやな。

てっきり何かの悪ふざけかと思うたわ。

話を戻すと、イスラエルは主ではなく、雄山羊の魔神を崇め始めた。

これはアメリカの例と違って、宗教の多様性とかじゃない。

だから主の祭司はそこから離れてユダ王国に集まってきたんだ。

エジプトの王シシャクがユダ王国に攻め上ってきた。

ソロモン神殿の金の盾は奪われてしまった。

レハブアムは代わりに青銅の盾を造り、護衛隊の隊長たちに託した。

レハブアムが主にへりくだったことで、ユダ王国は全滅を免れた。

しかしレハブアムは悪を行った。

主を心から求めようとしなかったのだ。

うなるほど金があったんに、青銅で造りなおしか。

悲しいなあ。

しかし少々『列王記』とはニュアンスが異なっていますわね。

『列王記』ではアシェラ像を建てていましたが、その様子がありませんわ。

『歴代誌』でレハブアムは律法を捨てて主を求めなかった。

とは言え、積極的に他の神々を拝んだとも書かれていない。

ソロモンほどではないけれど、ここにも著者の意図が見えるね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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