4.平和の象徴

エピソード文字数 1,037文字

(花婿)

わたしの愛する人。

あなたはなんと美しい。

ベールの奥のあなたの目は鳩のよう。

ちょっと前にも同じこと言うとったな。

そんなに鳩が好きなんやろか。

鳩は中東において重要な存在だ。

例えばメソポタミア神話のイナンナ(イシュタル)の象徴ともなっていた。

イナンナは愛の女神。

その象徴たる鳩の瞳とは、愛の眼差しと言えそうですわね。

他には地母神アシェラ。

彼女もまた鳩をその象徴としていた。

覚えとるでアシェラ像。

建てるたんびに神様怒らして、しょっちゅう倒されるやつや。

さらにイナンナの要素はギリシア神話のアフロディーテに吸収された。

彼女は様々な場面で鳩と共に描かれている。

17世紀から18世紀に生きたフランスの画家、ジャン・ラウー作。

ギリシア神話のピグマリオンがモチーフになっている。

彫像ガラテアの上にいるのがアフロディーテ。

2羽の白い鳩が一緒に描かれているね。

ガラテアはアフロディーテに似せて彫られたそうな。

本物の女神に出会い、美しい妻を娶る。

なんと幸運なことかしら。

聖書においても鳩は重要な位置づけにある。

『創世記』の世界が洪水で流された時。

鳩がオリーブの葉を持ってきて、大地が現れたことにノアが気付く場面があった。

せやったわ。

そんで、それが理由で鳩を「平和の象徴」言うんやったっけ?

実はユダヤ教において鳩は「平和の象徴」とされていない。

彼らは鳩を「人の魂の象徴」と言う風に捉えている。

キリスト教の初期においても、いわゆる「平和の象徴」とは異なる。

それよりは「精神の平和」といったような見方をしていたんだ。

『マタイによる福音書』第3章16節

イエスは洗礼を受けると、すぐに水から上がられた。

すると、みるみる天が開かれ、神の霊が鳩のようにご自分の上に降ってくるのをご覧になった。

聖霊さんは鳩みたいな感じなんやね。
それが時代を経て徐々に「平和の象徴」に変化したんだ。

その由来はかの高名なアウレリウス・アウグスティヌスにさかのぼる。

『キリスト教徒の教義(De doctrina Christiana)』に書かれている言葉だ。

曰く、「永久的な平和は鳩が持ち帰りしオリーブの枝によって示される」
それでは「平和の象徴」は鳩ではなくオリーブの枝ではなくって?
そうかもしれないね。

とは言え、鳩とオリーブの枝はセットで語られる。

鳩そのものが「平和の象徴」とされても不思議ではないのさ。

こちらはローマ、サン・セバスティアノ聖堂のカタコンベに描かれたもの。

鳩がオリーブの枝を加えているのが分かるね。

ゆるいなー。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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