2.ハゲの怒り

エピソード文字数 1,086文字

さあ、みなさんお待ちかね。

ハゲの話だよ。

いやいや、誰がハゲの話なんか待ちかねるんや?
需要はそれなりにあるよ?
ともあれ、預言者の話に戻ろうか。

偉大なる預言者エリヤは後継者を選び、自身は天に上げられた。

その後継者の名をエリシャと言う。

預言者エリシャはエリコの町にたどり着いた。

そこは水が悪く、流産が多いので人々は苦しんでいた。

エリシャは水源に塩を投げ、主の力により水を浄化した。

エリシャはそこからベテルに上っていった。

そこに少年たちが町から出てきて、彼をあざけって言った。

「上って行け、はげ頭、上って行け、はげ頭」

エリシャは彼らをにらみつけ、主の名によって彼らを呪った。

二頭の雌熊が森から現れ、子供らの内42人を引き裂いた。
何しとんねん。
さすが、ハゲは容赦ない!
いやいや、それはさすがに怒られるで。

いくらハゲが寛容や言うても限度があるからな。

この場面は聖書を読んだこと無い人もけっこう知っているね。

全体的に見ても無茶苦茶な展開というので有名なんだ。

確かに、めちゃくちゃインパクトあるしな。

せやけど、この話はいったい何なんや。

雌熊は凶暴だから気をつけろ、ということかしら?
ユダヤの伝統的な解釈はいくつかある。

中世フランスで有名なユダヤ人の学者ラシ。

彼は「少年」とは「不道徳な人」を意味していたのではないかと考えた。

不道徳?

何がやろ。

エリコは水の状態が悪い町だった。

だとすれば町人たちはどのようにして飲み水を確保したか。

そこに高く売りつける水のカルテルがあったのではないかという。

少年たちというのは、そのカルテルを仕切るギャングみたいなものなんだ。

エリシャが水を浄化してしまったせいで、せっかくの稼ぎ口が文字通り水の泡。
そういうことだね。

さらに「上って行け」という言葉は、この世から追い出すという風にも取れる。

要はこの場面はギャングが来て「ぶっ殺すぞ、はげ!」というところというわけ。

「はげ」は比喩ちゃうんやな。
そうではなく、やはりエリシャの行為はやりすぎたという解釈もある。

そしてそれゆえにエリシャは主に罰を与えられてしまう。

さらに別の解釈では、これをある種の寓話と見ている。

「少年たち」は何かの犯罪者で、町から追い出されたのではないかってね。

聖書は荒唐無稽な話が多いけど、まあ「そういうもんか」て思える。

せやけど、これは「いくらなんでもありえへん」みたいになるからな。

あれこれ解釈が出るのも、なんとか説明せなあかんっちゅう気持ちの表れやろな。
難しく考えすぎですわ。

はげを馬鹿にしてはいけない、雌熊を怒らせてはいけない。

これが神の教えでは?

案外、そんなところに真実があるかもね。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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