5.ダニエルの見た幻

文字数 1,021文字

ベルシャツァル王治世の頃。

ダニエルは四頭の獣の夢を見た。

その獣たちは次のように紹介されている。

【第一の獣】

獅子の姿で鷲の翼を持つ。

→翼は引き抜かれ、人のように二本の足で立つ。人の心が与えられる。


【第二の獣】

熊の姿をしており、三本のろっ骨をくわえている。


【第三の獣】

豹の姿をしており、鳥のような四つの翼と四つの頭を持つ。


【第四の獣】

見たことも無い獣で、鉄の歯で獲物を噛み砕き、十本の角を持つ。

→一本の小さな角が生え出て、初めの角のうち三本は抜け落ちる。

新古典主義のイタリア人画家、ルイージ・サバテッリによる。

ダニエルが見た幻の獣たちを生き生きと描いているね。

ライオンちゃんの羽、むしり取られそうになっとるやん。

ちょっと嫌そうな顔が妙に可愛らしいな。

この夢もまた何かの暗示である、と?
その通り。

ただこの夢の面白いところは、時代に応じて再評価されるところなんだ。

現代ではおそらく次のような説明が一般的だろう。

【第一の獣】:バビロニア

【第二の獣】:メディア/ペルシア

【第三の獣】:ギリシア

【第四の獣】:ローマ

『ダニエル書』にもうローマが出てくるんか?

バビロン捕囚から見たら随分先に見えるけど。

『ダニエル書』自体には国名は書かれていない。

これはきっと解釈をした時代によるものだ。

実はこれ以前の解釈がある。

【第一の獣】:アッシリア

【第二の獣】:バビロニア

【第三の獣】:ペルシア

【第四の獣】:ギリシア

獣の時代が一つずつ遡ってますわね。

なるほど、これはその当時における覇権国家が第四の獣ということ。

時代が変われば当然解釈も変化するというわけ。

新しいとこだと、次のような解釈まである。

【第一の獣】:神聖ローマ帝国

【第二の獣】:初期ヨーロッパ

【第三の獣】:現代ヨーロッパ

【第四の獣】:アメリカ合衆国

ダニエルさん、ずいぶん先のことまで考えとったんやなあ。
さらにダニエルはまた別の幻を見る。

雄羊と雄山羊が戦い、雄山羊が勝利するという内容だよ。

これには国名付きで解釈が説明されている。

(大天使ガブリエルの言葉)

お前の見た二本角の雄羊はメディアとペルシアの王である。

そして毛深い雄山羊はギリシアの王である。

その両目の間の大きな角は最初の王だ。

取って代わる四本の角は、その国から興る四つの王国だが同じような力はない。

雄山羊はすなわち、アレクサンドロス大王のことですわね。

彼の死後、マケドニアは四つの国に分裂いたしました。

そっから先の物語は『マカバイ記』に詳しいんやったな。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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