9.神の力

エピソード文字数 1,011文字

その時、主はヨブに答えて仰せになった。

何者か、無知な言葉をもってわたしの計らいを暗くする者は。

ついにボスのお出ましやな。
いきなり現れて、随分と尊大な態度ですこと。

まさしく神ですわね。

しかし……、「無知な言葉」とは誰の言葉ですの?
19世紀の神学者アルバート・バーンズは疑いなくヨブのことだと断言している。

エリフではないかと言う人もいたけれど、彼はそれを否定した。

バーンズによれば「無知」というのは、成果に結びつかない言葉なんだ。

どこにでもある話さ。

言葉をいくら尽くしても、相手に何も伝わらないなんてことはね。

そんな時は黙って祈りでも捧げていた方がマシ。

神はヨブの信仰を褒めはしたけれど、言葉については「無知」としたわけだ。

なんせ神やからな。

神にしてみたら誰かて「無知」になるやろ。

お前は海の湧き出るところ、深淵を歩き回ったことがあるか。

死の門、暗黒の門を見たことがあるか。

大地の広がりを見極めたことがあるのか。

そのすべてを知っているのなら語ってみよ。

無茶振り。
人であるヨブにできっこないことを言ってマウント取るだなんて。

まるで子供のよう。

死の門は海底か地底にあるとされていた。

日本神話の「根の国」みたいだね。

根の国は『古事記』では地下、大祓(おおはらえ)の祝詞では海底ともされる。

そのようなところに人の力ではたどり着けない。

神のみがたどり着ける。

力の差を分かりやすく示した場面だろうね。

お前はすばるの鎖を結び、オリオンの綱を解くことができるのか。

時期が来ると、十二宮を引き出すことができるのか。

大熊座を小熊座とともに導くことができるのか。

オリオン?

それはギリシア神話における狩人の名でしてよ。

海神ポセイドンの子ともされるその名を神が許すのかしら。

このあたりは僕も興味深いところさ。

後のキリスト教徒たちも唯一神を崇拝しながら、ギリシアの神々は受け入れている。

もちろん信仰を深めたわけじゃない。

けれど例えばフランスのルイ14世なんかはバレエで太陽神アポロンを演じるほどだ。

ギリシア・ローマの神々はうちのボスと喧嘩せんかってんな。

仲良うできるんはええこっちゃ。

ついこないだまでバアルと同じく敵対する神々でしたのよ。

またいつ牙をむくことやら。

自然と会話の中に入ってくるくらい、文化的な影響が強かったのかもね。

天文学もそうだけれど、当時ギリシアの学問は他を圧倒しただろうから。

この後、神は様々な例を挙げて、自分は凄いアピールを続ける。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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