2.エリ・エリ・レマ・サバクタニ

エピソード文字数 1,017文字

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ(Eli, eli, lema sabachthani)」

これはアラム語で「神よ、神よ、なぜ私を見捨てられたか」という意味だ。

おそらく『詩編』においては最も有名な一節だろうね。

十字架に磔となった救世主が大声で叫んだのですもの。

それはもちろん、有名になりましてよ。

『詩編』は全部で150もある。

それら全てを読み解くなんて無茶だから、気になるところだけ抜粋していこう。

この最も有名な一節は、『詩編』第22編に記されている。

『詩編』の引用については、Japanese Living Bible (JLB)を利用する。

神よ、私の神よ。

どうして、私をお見捨てになったのですか。

どうして、助けるどころか、

うめきさえ聞いてくださらないのですか。

なんでか分からんけど、追い詰められて苦しい時のセリフなんかな。

日本人も進退窮まった時に「神も仏もあらしまへん」言うし。

普段、さほど信心深いわけでもないのに、辛い時だけ神の不在を嘆くよね。

身勝手ではあるけれど、人は苦しい時こそ神を求めるということかな。

徒党を組んだ悪人どもが、

群がる野犬のように私を取り巻きます。

私の手足は引き裂かれています。

「引き裂かれ」という箇所は、原文校訂による口語訳では「縛りました」とされている。

他には「刺し貫いた」とか言われたりしているらしい。

両手足を縛られた状態……。

彼が大声で叫んだ際も、その言葉を思ったのかしら。

それはありうる気ぃするなあ。

その場合、「徒党を組んだ悪人ども」ってのも気になるとこや。

ああ主よ、そばにいてください。

ああ、私の力である神よ、大急ぎで助けに来てください。

死から救い出してください。

私の尊いいのちを、こんな悪人の手に渡さないでください。

かの者が叫んだ時、周りは「エリヤを呼んでいる」のではないかと思ったそうだ。

エリヤというのは力ある預言者の一人だったね。

「なぜ私を見捨てられたか」が誰かを呼ぶ意味になる。

正直なところ、僕はこれが不可解だった。

だけど『詩編』を見れば、続く言葉に助けを求める声があったというわけだ。

短歌で上の句詠んで下の句を想起させるようなもんやな。

最初の一文だけで、後の流れは付いてくる。

主は王であって、国々を支配します。

高慢な者も謙遜な者も、

死ぬべき運命にある人はみな、主を拝みます。

さて。

ここまで言って、肝心の神は助けに来てくれたのかしら。

うちのボスは、やる時はやるからな。

大丈夫やで……、たぶん。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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