24.受難告知

文字数 1,169文字

イエスは、ご自分がエルサレムに行き、長老、祭司長や、

律法学者たちから多くの苦しみを受けて、殺され、

そして三日目に復活することを、弟子たちに打ち明け始められた。

今からとんでもないネタバレをするよ。

イエスは死ぬ。

そして生き返る。

な、なんやて!?
いえ……。

有名過ぎるお話でしてよ、お姉さま。

知ってても毎回悲しいんや。

しゃあないで。

初めて聞いた弟子たちの驚きは推して知るべし。

するとペトロがイエスを諫め始めた。

「主よ、とんでもないことです。決してそのようなことはありません」。

イエスは振り返って、ペトロに仰せになった、

「サタン、引き下がれ。

お前は、わたしをつまずかせようとしている。

お前は、神のことではなく、人間のことを考えている」。

弟子をサタン呼ばわりとは、愉快な見世物ですわね。
この場のサタンは「悪魔」ではなく「反対者」だと言う人がいる。

もしくは荒れ野で行ったサタンとのやり取りの延長線上にあるとも言える。

ペトロの発言は、当人は意図せざるものでも、悪魔の誘惑みたいなものだったのさ。

自分の命を救おうと望む者は、それを失い、

わたしのために自分の命を失う者は、それを得る。

なんやろ、これ。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」ってことやろか。

そういうのとは少し違っているかな。

これは信仰無き生の虚しさを語る場面だ。

イエスと共に歩むのは苦難の道だけれど、その先には真実の生がある。

逆にイエスを捨てて自分のために生きても、そこには嘘の生しかない。

虚飾にまみれていようと、それと知らずに最後まで生きれば勝ちですわ。

真実の生などと、それこそ偽涅槃かもしれなくてよ?

それをいったい誰が証明してくれるのかしら。

六日の後、イエスはペトロ、ヤコブ、ヨハネを連れて高い山に登られた。

その時、イエスの顔は太陽のように輝き、衣は光のように白く光った。

すると彼らの前にモーセとエリヤが現れて、イエスと語り合っていた。

モーセとエリヤが登場することで、旧約聖書のお墨付きを与えるのさ。

イエスこそがメシア、救世主であるとね。

ペトロが口を挟んで、イエスに言った、

「お望みなら、わたしはここに三つの仮の庵を造りましょう」

ペトロ……。
時にペトロは考え無しに物を言う。

ひょっとしたら彼は三名に長居してもらいたいと思ったのかもしれない。

イギリスの牧師キャンベル・モルガンは3名の役割についてコメントしている。

モーセは律法制定者、エリヤは宗教改革者、そしてイエスが救世主だという。

ペトロが言い終わらない内に、光り輝く雲が彼らを覆った。

すると、雲の中から声がした、

「これはわたしの愛する子、わたしの心にかなう者。彼に聞け」。

神のご登場かしら?
突然のことに弟子たちは恐れおののいた。

しかしイエスが「恐れることはない」と言って彼らに触れる。

その後、目を上げるとそこにはイエスの他に誰もいなかったとさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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