6.テル・ダン石碑

エピソード文字数 1,082文字

おっ。

また石碑やな。

現在、エルサレムのイスラエル博物館に所蔵されている遺物だね。

材質は玄武岩で、書かれているのはフェニキア文字の古代アラム語だ。

具体的に何が書かれてありますの?
イスラエルとユダの王を殺したということが書かれている。

イスラエル王はアハブの子で、アハズヤの弟ヨラム。

ユダ王はヨシャファトの子ヨラム、そのヨラムの子アハズヤが王となっていた。

んん……!?

ヨラムとかアハズヤとか、同じ名前多すぎちゃう?

名前が同じなのは、振る舞いの同一性を表している。

ルシアン・ギレス・ベンギギという20世紀イスラエルの学者はそう考えたらしい。

あと、教文館の『旧約新約聖書大事典』

そこにはヨラムは同一人物と言った学者がいた、と書かれているらしい。

とりあえず、ややこしいっちゅうことは分かった。

気にせず先に進もか。

うちらは別に、学校の試験勉強しとるわけちゃうからな。
エリシャの指示を受け、ある若い預言者はイエフのもとに来た。

イエフは軍の司令官である。

その預言者はイエフの頭に油を注ぎ、次のイスラエル王に選ばれたと告げた。

そしてアハブの家を滅ぼし、イゼベルは犬に食われると言った。

神に選ばれしイエフはイスラエル王ヨラムを殺す。

そしてたまたまヨラムを見舞いに来ていたユダ王アハズヤも殺した。

一国の王を殺す下克上は数あれど。

まさか二国の王を一度に殺して王になるとは。

なんと剛毅な。
そんで、聖書の話が、テル・ダン石碑にも書いてあったってことか。
ここから少しややこしくなる。

テル・ダン石碑を解読すると、「私が」イスラエルとユダの王を殺したと書かれている。

ちゅうことは、テル・ダン石碑を書かせたんはイエフか?
イエフが作らせた、という学者もいるけれど少数派さ。

多数派はアラム・ダマスカスの王、ハザエルが作らせたと考えているね。

だから、テル・ダン石碑ではハザエルが二人の王を殺したということになる。

とすれば、イエフが殺したというのは間違いだったと?
そうでもない。

この矛盾するかのような資料の整合性を保つ方法が一つだけある。

1965年生まれのアメリカ人聖書学者、ウィリアム・シュニイードウィンド。

彼はイエフはハザエルの放った刺客だったという説を唱えている。

なるほど。

そんなら筋が通るわ。

ハザエルは人を使って二人の王を殺したっちゅうことやな。

そないすると、預言者がハザエルの使いか?
憶測に憶測を重ねすぎているかもしれないね。

エリシャはこの件に関わらず、聖書の創作という可能性だってある。

深入りを避けて、イエフがイスラエル王になったという理解にとどめよう。
サタニャエルくん。

うちらはとっくに沼の底や。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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