1.イエスは天使に勝る

文字数 1,102文字

『ヘブライ人への手紙』はパウロ書簡の一つだ。

けれど、現代ではパウロ以外の誰かが書いたと考えられている。

そして非常に高い文学性を有しているとも言われているんだ。

「ヘブライ人へ」ってことは、あて先はエルサレムやろか。

エルサレムにおる、ユダヤ人のキリスト教徒?

おそらくそうだろう。

ユダヤ人キリスト教徒であることが確定しているわけじゃない。

とは言え、そう考える方が自然だという気もするよ。

ここに描かれているのは、ユダヤ教を捨ててキリスト教に改宗した人たち。

しかし、また徐々にユダヤ教に心ひかれている人たちだ。

そういった人たちを留めるために書かれた手紙、というのが一般的な理解だね。

気持ちが離れて行くのは当然のこと。

そもそも万軍の主たる神を拝むのがユダヤ教。

それに対して、ただの人間で、ローマ帝国によって処刑されたイエスを拝むキリスト教。

どちらの方が魅力的かは一目瞭然ではないかしら。

頑張って色んな人を癒やしてきたのになあ。

いのうなってもうたら、その影響力が落ちてまうのはしゃあないか。

そういうわけで著者はイエスがいかに優れているかを力説する。

まず、イエスは天使に勝ることを聖書によって解き明かそうとした。

神は、その初子をこの世に遣わすにあたり、

「神の使いたちはみな、彼を伏し拝め」と仰せになりました。

この箇所は『申命記』と『詩編』の改変だと思われる。
『申命記』第32章43節

天よ、主とともに喜び歌い、よろずの神々よ、主を礼拝せよ、

主はその子らの血の仇を返し、その仇に報復し、ご自分を憎む者に報い

その民の土地を贖われる。

『詩編』第97章7節

すべて偶像に仕える者、むなしい神々を誇る者は辱められよ。

すべての神よ、主の前にひれ伏せ。

神の使いではなく「神々」となっていますわね。

異教の神を天使に貶めることで、力関係を明確にでもしたのかしら。

当たり前やけど、イエス様やのうて神様にひれ伏せ言うとるな。

ただその神様とイエス様はイコールで結ばれとる。

せやから同じことやっちゅう論理なんかもしれん。

さらに『詩編』第104章4節のギリシア語訳を引用する。

ヘブライ語では風を使いに、炎を僕(しもべ)にしたと言っている。

これがギリシア語訳では使いを風に、仕える者を炎にしたと逆転している。

こちらを引用することで、イエスを天使よりも上位の存在としたわけだ。

イエスは、み使いたちではなく、アブラハムの子孫を助けに来られるのです。

したがって、イエスは兄弟たちと同じものとならなければなりませんでした。

イエスは天使に勝る存在だ。

そんなイエスが人の子として現れたのにも理由があった。

そのへんのことをよくよく理解するように、手紙は告げているのさ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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