2.ソロモンの大岡裁き

エピソード文字数 1,124文字

着物を着たソロモン?

なんやこの妙ちきりんなタイトルは。

これはアメリカ陸軍士官のI.G.エドモンドが1956年に書いた話の表紙だよ。

吉川英治の小説『大岡越前』で有名な、大岡忠相(ただすけ)についての本なんだ。

出版元は星条旗新聞(Stars & Stripes)。

アメリカ国防総省内で編集され、主にアメリカ軍に関する記事を載せている新聞だよ。

その大岡なんとやらが、ソロモンとどう関わりますの?
「大岡裁き」という有名な物語がある。

様々な問題を上手に解決していく話だよ。

中でも子供を取り合う二人の母親の話が有名だね。

ある子供の母であると名乗る二人の女がいた。

両者一歩も譲らずに言い争う。

そこで町奉行の大岡忠相は子供で綱引きをするよう提案したんだ。

最後まで子供の手を握っていた方が真の母親だと言ってね。

ええんか、そんなことして。

子供ちぎれてまうで。

ミカちゃんが心配するよう、子供は痛くて泣き叫ぶ。

それを見た一方の女が慌てて手を離すんだ。

決着つきましたわ。

最後まで手を掴んでいた女が真の母親ね。

……とはならない。

大岡忠相は泣き叫ぶ子供を憐れに思う心こそ母親の情だと考えた。

だからこの場合、手を離した方の女こそが真の母親なのさ。

あら、つまらない。

勝負のルールを途中で変えてしまうなんて。

いや、これは勝負じゃなくて裁判だからね。

そこを履き違えてはいけない。

この「大岡裁き」の源流が、ソロモンの物語ではないか。

法学者の尾佐竹猛(おさたけ たけき)、文学評論家の木村毅(きむら き)

この辺の人たちが、詳細は異なれど提唱したんだ。

上述の着物を着たソロモンもそういう流れから来たんだろうね。
そして問題の場面を描いた絵がこれだよ。

ピーテル・パウル・ルーベンスによる作品だね。

赤ん坊がひっくり返されとるな。

何してんねん、こいつら。

赤ん坊を真っ二つに切り裂こうとしているところだよ。
……。
二人の娼婦が、赤ん坊は自分の子であると主張し譲らなかった。

一方の子は死んでしまったが、二人は同室にいたため混乱を招いたのだ。

そこで王は剣を持って来させ、「半分に切って二人に与えよ」と命じた。

子の母親は「赤ん坊をその人にやって、殺さないで」と願った。

もう一方の女は「切り分けて、誰のものにもしないで」と言った。

王は先に「殺さないで」と願った女こそ真の母親であると裁いた。

自分のものにならないなら壊してしまいたい。

もしくは、最初から殺すつもりだったのかしら。

いと、あさましき人の業よ。
これにより、イスラエルの人々はソロモンを知恵者とみなすようになった。

神の知恵がソロモン王のうちにあると信じたんだ。

なるほどなあ。

ちゅうことはあれやな。

大岡忠相もソロモン並みに賢いっちゅうことやろ。

かくあれかし。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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