4.シェバの女王

文字数 1,274文字

はえー、きれいなお姉さんやな。

どなたさんやろ。

彼女の名はベティー・ブライス。

1893年に生まれたアメリカの女優で、この写真は「シェバの女王」に扮しているね。

シェバの女王?
ソロモンの優れた知性は周辺諸国に広まっていた。

そんな時、ソロモンを試そうとする人が現れた。

それがシェバの女王だよ。

シェバの女王は難問を持ってソロモンを試すが、ソロモンはその全てを解き明かした。

女王は息を呑み、ソロモンを称えて彼に金銀財宝を贈った。

ソロモンもまた贈り物、シェバの女王が求めるもの全てを与えた。

シェバの女王に関する記載は多くない。

聖書には彼女自身の名前も書かれていないんだ。

後世、イスラムでは彼女をビルキース(Bilqis)と呼んだ。

これはギリシア語の「パラキス(pallakis)」、ヘブライの「ピレゲシュ(pilegesh)」

……といった言葉に由来していると考えられている。

「パラキス」も「ピレゲシュ」も「内縁の妻」という意味ね。

そんな名前、ありまして?

さらにエチオピアではマケダ(Makeda)と呼ばれる。

これはビルキース(Bilqis)をエチオピア読みに言い換えたものなんだ。

要するに、名も知らぬ女王が財宝抱えてやって来たってことか。

なかなか興味をそそる話やないか。

その通りだね。

そもそもシェバという国自体も謎なんだ。

謎の多さゆえか、短い説話でありながら、多くの芸術作品に影響を及ぼした。

先のベティー・ブライスもその一つですわね。
文学への影響も大きい。

15世紀、フランス文学最初の女性職業文筆家とされるクリスティーヌ・ド・ピザン。

女性蔑視的な文学に対抗して女性擁護の立場で詩を書いた人だ。

そんな彼女の作品で最も有名なのが『婦女の都』

その中でシェバの女王は「ニカウラ(Nicaula)」という名で登場する。

自立した女。

その象徴としてシェバの女王が採用されたというわけね。

男だらけの世界で活躍するとか、かっこええやん。

アルテミジア・ジェンティレスキみたいやな。

男は戦場に立つ女を好まない。

けれどいざ戦場に女が現れて活躍すればそれを崇めるものなのさ。

話は変わるけれど、シェバの女王についておまけの話がある。

中世のキリスト教徒たちは、時々、シェバの女王を「シビュラ」と同一視したらしい。

シビュラってあれやろ?

センサーで人の犯罪係数を調べて、高い奴はさっさと捕まえるやつ。

アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』に出てきた画期的なシステムや。

あれがあったら、エバが知恵の実を取るのも阻止できたんかなあ。

まさしく、シビュラ・システムは草どもを知恵から遠ざける悪魔的発明でしたわね。
アニメの話はさて置き。

シビュラは元々、ギリシア神話の太陽神アポロンの神託を受け取る巫女のことだよ。

フランスの歴史家ジュール・ミシュレはシビュラを「魔女の起源」と考えた。

そうした諸々を見ると、シェバの女王からは非常に多くのキャラクター性が感じ取れる。

聡明で自立した女であり、財宝を持った魅惑的な女でもある。

想像がさらに想像を呼んだんやろ。

話もシンプルな方が想像膨らませやすくて楽しいしな。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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