2.花嫁と花婿

エピソード文字数 1,057文字

(花嫁)

あの方が私に熱い口づけをしてくださいますように。

あなたの愛はぶどう酒よりも心地よく。

あなたの香油はかぐわしい。

あなたの名は滴る香油のよう。

『雅歌』は花嫁の情熱的な愛情表現で始まる。

愛しい人のキスを願う気持ちが、ぶどう酒や香油で彩られているね。

ちなみにこの箇所はヘブライ語では韻が踏まれている。

「名」は「シェム」、「あなたの名は」で「シェメーハ」となる。

そして「香油」は「シェメン」だ。

シェメン・トゥラック・シェメーハ♪

これで「あなたの名は滴る香油のよう」となるのさ。

構わんのやけど、最後になんで「♪」つけたんや?

ノリノリやないか。

『雅歌』は詩と言うより、歌なんだよ。

Youtubeの動画でヘブライ語『雅歌』の朗読を見てほしい。

中東の雰囲気を醸すアカペラソングが流れてくるから。

「朗読」と言うと、そこそこ感情を込めて読むような印象はございますが。

それすなわち歌、という認識はありませんでしたわね。

わたくしも先日、Youtubeで動画を拝見しましてよ。

「Song of Songs reading Hebrew Ashkenaz Rabbi Weisblum」

『雅歌』全てを歌い上げるのはおよそ30分。

お経に比べて多少、音の変化が楽しめるくらいかしら。

内容が愛の歌ですから、それなりには聴けましたわ。
実は合間に「おとめたち」の歌が挟まる。

そのへんは割愛して、花婿の歌を見てみよう。

(花婿)

私の愛する者よ。

あなたをファラオの戦車を引く雌馬に喩えよう。

花嫁、馬呼ばわりやけど、ええんか?
エジプトの馬は高価で、花嫁をそれに喩えるのはアラブ世界でよくある表現なのさ。

女性の足を「カモシカのよう」と表現するのに似ているかな。

(花嫁)

王が食卓に着く間、私のナルドの油は芳しい香りを放ちました。

エロティックなところだね。

ナルドの油はインド原産で、男女の愛を深めるのに用いられた。

ストレスやうつ状態を改善する効果があるとも言われている。

気持ちをリラックスさせるのに使われたんだろうね。

イエス・キリスト最後の晩餐の前。

彼の足をぬぐう時に用いたのがこの香油と言われていますわね。

スパイクナード(ナルド)という植物の茎や根から抽出されます。

妊婦にはあまりよろしくないとのことです。

ご注意くださいな。

(花婿)

ああ、私の愛する者、あなたは美しい、何と美しいのか。

あなたの目は鳩のようだ。

鳩さん、かわええ。
せやけど、ほんまにええんか?

花嫁の目、こんなんで。

(花嫁)

ああ、私のいとしい方。

あなたは何と美しく、慕わしい方でしょう。

いいらしい。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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