10.誉れ高き人々

文字数 1,055文字

さあ、われわれは誉れ高き人々と、代々の先祖たちをたたえよう。
映画『炎のランナー』でも使われたとこやな。

誰かを褒めるんは気分ええことや。

「代々の先祖たち」と言うからには、この後、具体的な名前が続く。

最初に名前が出てくるのはエノク。

弟アベルを殺した兄カインの息子だね。

『創世記』第4章17節~18節

カインは妻を知った。妻は身籠ってエノクを産んだ。

カインは一つの町を建て、その子の名に因んで、その町をエノクと名づけた。

エノクにはイラドが生まれ、イラドには売布やエルが生まれ、

メフヤエルにはメトシャエルが生まれ、メトシャエルにはレメクが生まれた。

『創世記』第5章21節~23節

エノクが65歳の時、メトシェラが生まれた。エノクは神とともに歩んだ。

エノクはメトシェラが生まれてから300年生き永らえ、いく人かの男の子と女の子をもうけた。

エノクの一生は365年であった。

エノクは神とともに歩み、神がエノクを取られたので、見えなくなった。

以上が、エノク登場シーンの全てさ。
こんだけ?
『エノク書』というエチオピア正教会における聖書があるけれどね。

これはほとんどの教会で偽典扱いだ。

天使、堕天使、悪魔についての記述が多いのだとか。
であれば『エノク書』を聖書に含めておく方が、

オタクたちの関心を引けそうなものですわね。

ちなみにエノクは英語読みで「イーノック」

『エノク書』において天使、メタトロンになったとされている。

イーノック……。

せやったんか。

ノアは全き義人と認められ、洪水の際には彼のおかげで生き残った者がいた。

永遠の契約が彼と結ばれ、これによって肉なるものは洪水で滅ぼされない。

良かったね。

もう人類が洪水で滅ぶことはないらしい。

傲慢なる神のこと。

いつ何時、翻意するか分かりませんわよ。

アブラハムは多くの国々の偉大な父となり、

その栄光には非の打ち所がなかった。

美人局のアブラハムやないか。

うちは覚えとるで。

自分の妻を妹と偽って、他者に狙わせてたよね。

主はアブラハムに誓って、子孫を通じて国々を祝福することを確約された。

さらに主は、イサクにも、その父アブラハムの故に、同じく確約された。
親のついでみたいな扱いやな。

まあ、イサクは親の真似して美人局やろうとしたら失敗したし。

妥当な評価かもしれん。

この後も多くの名前が続く。

エジプトで奴隷となり、宰相に上り詰めたヤコブ。

イスラエル人をエジプトから解放し、カナンへと導いたモーセと兄のアロン。

戦場の勇士で、カナンの地を征服したヨシュア。

他にもダビデやエリヤと言った名を連ねて称えている。
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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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