2.絶世の美女ユディト

文字数 1,281文字

単なる美女やのうて「絶世の美女」とは。

なかなか大きく出たやないか。

ユディトの扱われ方はそうとしか言いようがないのさ。

続きを見ていけば分かる。

アッシリア軍に包囲されて、山中に篭るイスラエル人たちは息も絶え絶えだ。

降伏して捕虜になろうという声が高まるところにユディトは立ち上がった。

ユディトは、この町を敵に明け渡すべきではないと言った。

彼女は主を信じ、模範を示すことで、主に助けを求めようと語る。

指導者で長老のオジアはユディトの清い心を称えた。

しかし水不足に苦しむ民は、ならば主が雨を降らすように祈れと憤った。

まあ、当然ですわね。

どれほど格好の良いことを言ったところで、喉の渇きには勝てませんもの。

神がいるのなら雨でも降らせてみろと!

まことに、まことに。

いつもギリギリを攻めようとするビヨンデッタにハラハラだよ。
ちゅうか、この調子やと、雨やのうて炎が降ってきそうやけどな。
残念だけど雨も炎も降らないよ。

ユディトには全く異なる計画があったんだ。

それは、どのような?
ユディトはその場で計画を明かすことはしなかった。

そういうわけで僕らも結末を追いかけることにしよう。

ネタバレに配慮してくれるわけやな。
ユディトは神に祈りを捧げた。

異邦人たちを打ち砕くように。

そしてイスラエルの民に、主の他に彼らを守る者はいないと示すように。

祈りの後、ユディトは身支度を整える。

髪を整え、化粧をした。

ヴルガータというラテン語訳聖書では、ここで神の力が働いている。

神はユディトを、全ての人から麗しく見えるほどに美しさを増したと言う。

それは彼女自身の内面の美しさでもあるんだ。

ただでさえ美女のユディトが神の力まで得たら……。

確かに「絶世の美女」としか言いようあらへんわな。

ユディトは侍女に食糧を持たせ、町の門に向かった。

ユディトを見たオジアはその美しさに非常に驚いた。

化粧の力でしょう。

ころりと騙される男の阿呆さ加減には呆れるばかり。

いやいや、ここは神様の力やからな。
町の人々に見送られ、ユディトと侍女は谷を通って行った。

アッシリアの巡察隊が彼女を見つけて尋問した。

ユディトは尋問に答えた。

「わたしはヘブライの娘で、逃れてきました」

「イスラエルの民はあなた方に敗れるからです」

「総司令官ホロフェルネス様に、進軍の道をお教えしましょう」

ユディトはこのように言って、裏切りを伝えた。

これはもちろん敵を欺くための嘘だ。

しかし、いきなり現れた女を簡単に信用しまして?
それがあっさりと信用してしまう。

なんせユディトは神がかった美しさを持っていたからね。

兵士たちはユディトの美しさを目の当たりにして驚いた、と聖書に書かれている。
見た目の美しさにころりとやられる。

愚かな草どもね。

せやけどユディトの場合、内面の美しさがにじみ出とるわけやろ?

せやったら、見た目に騙されたわけでもないんちゃうか?

確かに仰るとおりですわね。

であれば、心の美しさにころりとやられる愚か者ども、と訂正いたしましょう。

心の綺麗な人が、必ずしも他者に良い結果をもたらすとは限らない。

そうではないと願うがゆえに人は不幸になるのかもしれないね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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