1.ザラスシュトラ

文字数 1,255文字

『バルク書』のバルクはエレミヤの友人だとされている。

『エレミヤ書』にもその名が記されていたね。

『エレミヤ書』第36章4節

そこでエレミヤはネリヤの子バルクを呼んだ。

バルクはエレミヤが口述する、主がエレミヤに語られた主の言葉をすべて巻物に書き留めた。

バルク(Bārūḵ)は「神の祝福を受けた」の意味ですわね。

英語ではBlessedとなります。

まったく、御大層な名前ですこと。

ミドラーシュによれば、バルクはエベド・メレクのことだと言う。

エベド・メレクは死の危機にあったエレミヤを救った人物だ。

バルクの名は、彼の信仰の深さを表しているのだとか。

内容はいつもの聖書って感じだ

序文があり、エルサレムの罪と悔恨、知恵の賛美、慰め。

そしてエレミヤの手紙として、偶像崇拝への戒めが書かれている。

いつも似たような話で、ちょっと飽きてきそうやわ。

天使が言うてええことちゃうんやろけど。

その点、悪魔であれば歯に衣着せぬ物言いが可能でしてよ。

いつでもこちら側は歓迎いたしますわ、お姉さま。

そんなミカちゃんにはちょっと面白いネタを提供しよう。

実はアラブのキリスト教徒の間で一つの伝説がある。

それは、バルクとはザラスシュトラのことであるというものだ。

ザラスシュトラって、拝火教のあれか?
ニーチェの『ツァラトゥストラ』でも有名ですわね。

ツァラトゥストラはドイツ語読み。

ザラスシュトラはアヴェスター語の読み方となります。

英語のゾロアスターが一番日本人にはしっくりくるかな。

拝火教よりもゾロアスター教と言えば知っている人も増えるだろう。

せやけど、バルクは唯一の神を拝んどるんやろ?

それがどないして他の宗教の教祖になったりしてまうんや。

ヘンリー・ドリスラーというアメリカの古典学者の本を参照しよう。

そこには、エルサレム神殿と町の攻囲、亡命の苦しみゆえに立ち去ったとある。

(Classical Studies In Honor Of Henry Drisler参照)

自らの生きる場所を求めて旅立ったということかしら。

仮にバルクがザラスシュトラだとすれば因縁深さもありますわね。

何せ、バビロニアを打ち破るのはアケメネス朝ペルシア。

ゾロアスター教はそのペルシアの国教となっていたのですから。

ゾロアスター教と聖書をつなぐ話が他にもある。

イエス・キリストの誕生時にやって来て彼を拝んだ東方の三博士。

彼らはラテン語でマギと呼ばれ、ゾロアスター教の神官という説がある。

バビロン捕囚からイエス誕生までだいぶ離れてるけどな。

何かしらの思いが伝わってたってことなんかもしれん。

さらにおまけで、ザラスシュトラが住んだ町はウルミヤ(Urmiah)。

これはエレミヤ(Jeremiah)の名を示す、とかいう説もある。

さすがに、こじつけのような気がいたしますが……。
ゾロアスター教とキリスト教をつなぎたい。

中東のキリスト教徒たちがそのように願ったのかもしれませんわね。

神仏習合のような形で、宗教の融和が図られたのではないかしら。

確かなことは分からへんけど……。

ロマンを感じるで。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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