1.ケートスに飲まれしヨナ

エピソード文字数 1,728文字

ケートスとはギリシア神話における海の怪物の名ですわね。

本来はクジラなどを意味します。

神話ではポセイドンによって作られた怪物で、生贄のアンドロメダを食べようとする。

そこを救い出したのがメドゥーサ退治で有名なペルセウスでしてよ。

はて。

そのケートスが聖書にも現れたと?

残念ながらそういうわけじゃない。

『ヨナ書』はヘブライ語で書かれたもので、それがギリシア語に翻訳された。

その時に「巨大な魚」は「ketos megas」となったのさ。

すなわち神話のケートスを指すわけじゃないけれど、関連付けられた表現だろうね。

そんで、ヨナってのは何者なんや?
アミタイの子ヨナは預言者だよ。

ある日、神がヨナに「ニネベに行って叫べ」と告げた。

ニネベはアッシリアの首都。

そこでの悪が神に達したからだと言う。

そんで、ヨナはニネベに行くわけやな?

悪いことやめへんと、神様に怒られるでーって。

いや……。

ヨナは逃げた。

はあ?

預言者が逃げた?

なんとも情けない。

しかも船に乗ってまで。

神から逃れられるはずもありませんのに。

主は海に向かって大風を吹きつけられた。

海は大時化となり、船は今にも砕けそうになった。

船員たちは神に助けを求め叫び、積荷を海に投げ込むなどした。

一方、ヨナは船底に下りて眠りこけていた。

ヨナ、ええ加減にせえよ!
これは愉快。

船長が怒りながらヨナに近づいていますわ。

船長はヨナに言った、

「寝ているとは何事か。起きて神に向かって叫びなさい」

船に乗った人々は誰のせいでこんな災難に遭っているかをくじ引きで調べた。

前にも話したけれど、くじ引きとは神の意思をはかる行為だ。

そしてくじ引きにより、災難の原因はヨナにあることが判明した。

ヨナは言った、

「わたしを海に投げ込みなさい。そうすれば海は鎮まるでしょう」

殺せと言われて簡単に殺せるもんでもない。

船員たちは必死で船をこいだ。

けれど海はますます荒れ狂ってしまう。

そしてついに耐え切れなくなってヨナを海に放り込むことにした。

彼らがヨナを抱え、海に投げ込むと、荒れ狂った海は静かになった。
まるで持衰(じさい)やな。

古代日本、嵐の海で生贄に捧げられた。

主は大きな魚に命じてヨナを飲み込ませられた。

そしてヨナは三日三晩、魚の腹の中にいた。

三日も魚の中など、生臭くって耐えられませんわ。
海に放り込まれたヨナは、魚に呑まれることで生き延びた。

そして今度こそ反省して、神の命に従うことにしたんだ。

主が魚に命じられると、魚はヨナを陸に吐き出した。
17世紀オランダの画家ピーテル・ラストマンによる「ヨナとホエール」

ラストマンはレンブラントの師匠でもある。

「ホエール」とありますが、クジラと言うよりはケートスですわね。

しかし、ヨナの間抜け面ったら……。

ヨナはニネベに言って人々に警告した。

すると人々は断食をして神の教えに従った。

それを見た神は災いを下すのを思い留まった。

良かったなあ。

これで一件落着やで。

しかしヨナはこの結末に不満だった。
いや、なんでや?

みんな無事で良かったやん。

災いがあると思って自分は逃げ出した。

けれど実際には何も起こらなかったなんておかしいじゃないかという不満さ。

こんなことなら死んだ方がマシだと神に訴えるんだ。

ひねくれとんな……。
ヨナは町の東の方に座って町の様子を眺めた。

神なる主はヨナを熱さの苦痛から救うために一本の唐胡麻を生えさせた。

頭上を日陰で覆われ、ヨナは非常に喜んだ。

神は虫に命じてその唐胡麻を食い荒らさせた。

東風と太陽の照り付けにヨナは気絶しそうになって言った。

「死んだ方がましだ」と。

ヨナはつくづく軟弱もの。

この程度で死んだ方がましだなどと、よくも言える。

神はヨナに「お前が怒るのはふさわしいことだろうか」と問いかける。

ヨナはずいぶん肝が据わっている。

「わたしが死ぬほど怒るのは当然です」と答えた。

神様相手になんちゅう度胸や。

うちでもそこまでは言われへん。

主は仰せになった、

「お前は自分で苦労して育てもせず、

一夜にして生まれ一夜にして滅びたこの唐胡麻を惜しんでいる。

ましてわたしは、右も左も分からない十二万以上の人と、

多くの家畜がいる大きな町ニネベを惜しまずにいられるだろうか」。

ほんまやで。

ヨナはもうちょい考えて行動せえや。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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