1.主の兄弟ヤコブ

文字数 1,077文字

聖書において、ヤコブと呼ばれる人物は複数いる。

古くはイサクの子で、エサウの弟ヤコブ。

彼は兄のエサウから長子の権と父の祝福を奪った人物だったね。

忘れられへん事件やな。
いわゆる新約聖書においても数多い。

例えば聖母マリアの夫ヨセフ、その父親もヤコブだ。

ここを気にする人はさほどいないだろうけど。

イエスの系図を丸暗記でもしなければ、思い出すことは困難でしょうね。
最もメジャーなヤコブは12人の使徒の一人、ゼベタイの子ヤコブ。

彼は使徒ヨハネの兄弟で、大ヤコブとも呼ばれる。

そしてもう一人、同じく使徒で、アルファイの子ヤコブ。

彼は小ヤコブとも呼ばれる。

とまあ、紹介してみたけれど、『ヤコブの手紙』の著者は上記の誰でもない。

この手紙の著者は伝統的にイエスの兄弟ヤコブだと考えられている。

『マルコによる福音書』第6章3節

この人は大工ではないか。

マリアの子、またヤコブ、ヨセ、ユダ、シモンの兄弟ではないか。

そしてまた、姉妹たちは、わたしたちと一緒にここにいるではないか」。

このように人々はイエスにつまずいた。

確かこのヤコブが小ヤコブと同一人物って話もあらへんかった?
そういう説もある。

そしてそのへんにはまり出すと、そこは抜け出せない沼だ。

だからとりあえず使徒であったかどうかは棚上げしよう。

『ヤコブの手紙』はイエスの兄弟ヤコブによる手紙と考える。

さらに、そもそもヤコブではないという話もあるけど、割愛だ。

いつまでも本題に入れないのは問題ですものね。

それで、この手紙には何が書かれているのかしら。

色々あるけれど、全体を端的にまとめた箇所がある。

次の一文を見てみよう。

『ヤコブの手紙』第2章26節

息をしない体が死んだものであるのと同じように、

行いの伴わない信仰もまた死んだものです。

シンプルで分かりやすい話やな。

口でどんだけ偉そうなこと言うても、実践が無かったら意味あらへん。

弱者に親切にしよう言うて、皆で感動しといて……

ほんでいざ目の前に弱者が現れたら素通りする。

信仰はどないしてんって思うわ。

「先ず其の言を行い、而して後にこれに従う」

弁舌が立つも、行動がおろそかになる弟子子貢への孔子によるたしなめですわ。

これを元に王陽明は「知行合一」を主張いたしました。

知って行わないのは、まだ知らないのと同じこと。

愛を説いて愛を実践しないのなら、それは信仰が無いのと同じでしょう。

これまでのパウロ書簡では、信仰の伴わない儀式が批判されてきた。

それと対照的に、『ヤコブの手紙』では行動の伴わない信仰が批判されている。

この主張は対立するものではなく、相互補完的なものと見るのが良さそうだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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