1.アンティオキア事件

文字数 1,030文字

『ガラテヤの人々への手紙』に入ろう。

「ガラテヤ」がどこを位置するかははっきりと分かっていない。

小アジア、すなわちアナトリア半島の中部ではないかと言われたりする。

この手紙も今までと同じ、パウロによる神学思想について書かれている。

しかし僕らは悪魔だからね。

抹香臭い教えなんかよりもエキサイティングな出来事があればそれに飛びつく。

ここで注目したいのがアンティオキア事件だ。

うちは天使やけどな。

ほんで、そのアンティオキア事件ってのは何のことや?

「アンティオキア事件」という正式な名前があるわけじゃないけどね。

英語では「Incident at Antioch」と呼んでいるから、そのまま和訳させてもらった。

端的に言えばパウロとペトロの争いだよ。

パウロがペトロを非難したのさ。

バロック期スペインの画家、ホセ・デ・リベーラの「ペトロとパウロ」。

右側の剣を持っているのがパウロ、左がペトロだね。

ケファ(ペトロ)がアンティオキアに来たとき、彼に非があり、わたしは非難しました。

ヤコブのもとからある人々が来るまでは、異邦人とともに食事をしていました。

しかし彼らが来ると、割礼を受けたキリスト者たちを恐れ、異邦人から離れたのです。

あらあらペトロったら。

イエスが死んで随分経つと言うのに、未だに律法から逃れられておりませんの。

身に沁み込んだ価値観はぬぐい切れぬものですわね。

ペトロあかんで。

そんなんしたら、異邦人の人らも気ぃ悪くするやん。

パウロの非難はこれまでの彼の考えに沿うものだ。

信仰によってこそ義となり、律法によって義とされるわけではない。

律法についてはキリストを導く「養育係」として、信仰を得たら離れるものと言う。

パウロにしてみれば、ペトロはまだ「養育係」から離れ切ってないってことかな。

イエスの直弟子でもないパウロがペトロに物怖じしないのは、これも信仰ゆえだろうか。

「あなたはユダヤ人でありながら、ユダヤ人らしい生活をせず、

異邦人のような生活をしているのに、どうして、

異邦人にユダヤ人のような生活をしろと強要することができるのですか」。

ペトロによる反論は特に書かれていない。

この話はここまでだ。

後は「隣人を自分のように愛せよ」といういつもの話さ。

かつて自分たちを迫害した新参者が大きな顔をして偉そうに語る。

ペトロにパウロはどのように見えたのかしら。

議論は議論や。

それは置いといて、普段は仲良うしとったと思うで。

「隣人愛」を説きながら、指導者同士が喧嘩しとったら示しつかへん。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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